自立支援法情報(2006年9月~10月)

病院敷地内の退院支援施設
「地域移行に逆行」精神障害者ら反発

障害者自立支援法の10月全面施行に伴い、厚生労働省が精神科病院の病棟設備を「退院支援施設」に転換する案を検討している問題で、これに反対する精神障害者らが14日、厚労省前で抗議を行った(写真)。
呼びかけたのはDPI日本会議などによる「障害者の地域生活確立の実現を求める全国大行動」実行委員会。
障害者団体が厚労省案に反対しているのは、「看板を『医療』から『福祉』に変えるだけで、精神科病院で過ごす実態は変わらない。手っ取り早く精神障害者の社会的入院数を減らす策としてこの案が利用されかねず、地域移行に逆行する」という主張からだ。
厚労省案によると、退院支援施設は、昼間は自立訓練や就労移行支援事業を利用する人を対象とした居住の場。病院の外に設置する場合は原則個室だが、病棟を転換する場合は20~60人規模で4人部屋も認められる。また改築費用として1カ所に最大1億円が補助される。
厚労省はこれを「退院支援施設は最終的に地域移行に向かうための中間施設であり、メニューの1つ」と説明しているが、障害者らは「病床減に困る病院の経営支援でしかない。これがメニューに入ってしまうと地域移行の実践は崩れる」と猛反発している。
抗議が相次いだことで、厚労省は8月24日の全国障害保険福祉関係主管課長会議で「実施時期を含めて検討する」と自治体に説明。ただし案を撤回するかどうかは決まっていない。9月15日締め切りのパブリックコメントに寄せられた意見を見た上で是非を考えるという。
また、コメントの集計を踏まえて再度、障害者団体と交渉を待つ。
全国ピアサポートネットワークの加藤真規子さんは「ピアサポート活動や在宅サービスなど、当事者が求めている地域生活支援にこそお金を使ってほしい。根本が間違っている以上、妥協案で折り合うつもりはない」としている。

福祉新聞-2006.09.25

施設利用断念108人  滞納者は月ごとに増加
きょうされん支援法調査

きょうされんが行った「障害者自立支援法の施行にあたっての影響調査」で、利用料の1割負担が導入された4月以降、利用料を滞納したり、施設利用を諦めたり、利用日数を減らしたりした人たちがいる実態が15日、明らかになった。
調査は利用料・給食費の負担導入による影響を追跡把握するために行われたもので、今回は第2次に当たる。加盟施設のうち法定の入・通所授産施設、福祉工場のほか、グループホームなどを対象に、計531カ所(在籍者1万2928人)から回答を得た。
結果によると、4月から7月までの4カ月間で、利用を断念した人は108人に上った。断念を検討している人も157人いた。
断念した人の退所後の行き先は「自宅」46人、「他施設」25人、「就労」16人、「病院」7人などとなっている。自宅に戻った人の割合が全体の43%を占めた。
「利用料の要らない無認可作業所に移った」「悩んだ末に精神疾患を再発し入院した」といったケースもあり、不本意な決断をした様子が垣間見える。
また、これを施設別に見ると、通所施設の利用断念が91人、断念検討が142人と多い。入所施設では断念7人、検討5人となっている。さらに断念と検討の合計人数(グループホーム除く)を障害別に見ると、身体障害者45人、知的障害者129人、精神障害者79人となっている。
調査結果でもう一つ特徴的なのは、利用料と給食費の滞納者が出ていることだ。滞納者数は、4月分が161人、5月分が222人、6月分が296人と増えてきており、滞納した結果退所した人もいた。

こうした利用者の負担感は、利用日数・給食を抑制する傾向にも現れている。多くは給食からお弁当に切り替えたが、「昼は食べない」という人もいた。身体障害者施設では、利用に数を47人、給食を41人が抑制し、知的障害者施設ではそれぞれ112人、189人が抑制していた。
藤井克徳・常務理事は「障害者から悲鳴が聞こえている。当面は緊急の負担軽減策であったとしても、厚生労働省には早急に実態に合った手を打ってもらいたい」としている。

福祉新聞-2006.09.25

論壇    佐藤  久夫
障害者自立支援法の現状と課題

障害者自立支援法は今年4月から利用料の1割負担や日額制など一部が実施され、10月からは障害程度区分、新事業体系への移行、障害福祉計画など本格実施が迫っている。実施5カ月がたち、その実像が見えてきた。
まず利用者・家族から悲鳴が聞こえてくる。通所施設をやめて家に閉じこもった人。年間20万、40万円の負担増で家計を取り詰める人。負担軽減措置のために本人と家族の収入・預貯金・不動産を書かされて「貧乏のつらさを思い知らされた」と泣く人。職員減で目が届かなくなったために(歩けるのに)施設内では車いす利用を命じられた、てんかんのある人――。
事業者も報酬単価の切り下げや日額制で、10~40%の運営費減を迫られている。職員の解雇・非常勤化、給料・交通費のカット、利用者増、土日の開所、旅行・行事の中止で対応している。
30年前、社会福祉を目指す学生は親から反対されて大学に入学する例が多かった。給料・労働条件の悪さを熱意で補う時代に戻ってしまうのかと思う。
自治体もこうした困窮と不安を一手に受け止めつつ、情報・時間・職員不足の中でスケジュール消化に追われている。「市の担当者自身がよく分かっていなかった」という声も多い。やむなく独自の負担軽減を行うところが増え、法がなくそうとした格差は広がりつつある。
法律を作った側はどうか。日本知的障害者福祉協会が6月に開いた5500人の集合には、44人の与党議員が参加し、多くが「喜んでもらえると信じて法を成立させたが、このような抗議の大集合が開かれるとは」とショックを表明した。「障害者も働ける社会に」「低所得者には十分な負担軽減措置を講じる」などの説明を安易に信用したといえる。
厚労省も財務省にせかされ、まさに「走りながら考えて」進めてきた。その典型が、法案上程後の試行事業で作られた障害程度区分である。ほとんどの関係者が「障害者のニーズを反映しない」と指摘する。ただ、これは「急いだから不備がある」というよりも、要介護認定結果をあまり変えないという誘導のもとで実施された2005年の試行事業自体に問題があった。
では、どうしたらいいのか。
「財政難の時代、定率負担なくして国民理解は得られない」といわれるが、月収6~8万円の人が1~2万円の利用料を払うべきという意見が、ほんとうに国民の代表的なものか。しかも利用するサービスは生存に不可欠の介護や補装具であり、社会参加に必要な訓練である。
政府が海外でもこれをやっていると示したイギリスは、最低生活費プラス25%は少なくとも手元に残し、しかも勤労収入や障害に伴う出費は控除するなど、似て非なる例であった。
「定率負担」と「心身機能に基づく障害程度区分」は、「必要な人に必要なサービスを」という趣旨を阻害し、結局は問題の深刻化によって社会全体の負担を重くする。このため欧米では(基本的には)採用されていない。代わって自治体と専門職を信用し、あわせて利用者の不服申し立て制度とサービス水準への市民参加の仕組みを設けている。
3障害の統合、市町村への一元化、障害福祉計画など、良い面もある法律である。
厚労省も実態に基づく必要な修正は3年後を待たずに行うとしている。そのため、特に自治体・利用者・事業者が1つのテーブルについて市民参加の下で議論し、事実に基づく改善案を提起することが大切である。その際は、国会が議論できなかった自立の概念や障害者観などの基本的問題をベースに据えてほしい。
(日本社会事業大学教授・日本障害者協議会理事)

福祉新聞-2006.09.18

支援法問答集を頒布  JD、施行後実態を反映

日本障害者協議会(JD、勝又和夫代表)は冊子「障害者自立支援法への対応策1問1答」の第2版を完成させ、頒布している。
JDに寄せられた相談や質問を精査し、50個の問答集に仕上げた。3月に作成した第1版の続編に当たるものだが、改訂版ではなく新しい内容で構成した。
内容は大きく分けて

①申請からサービス利用までの流れ

②利用者・家族の不利益を少なくするために

③地域生活支援事業に関すること

④障害福祉計画について

⑤職員の皆さんへ──に分類される。

例えば①の章では「障害程度区分によって使えるサービスが決められてしまうの?」「自分で106項目調査して国のソフトに入力してみたら1次判定で非該当。私はサービスを受けられないの?」といった質問への回答を設けた。
今版では、4月の法施行後の実態を踏まえ、利用者負担や事業報酬の日額化について職員向けの問答に紙幅を割いた点も特徴だ。
「利用者負担が払えず施設を辞めて在宅になった人が何人もいる。請求書を見た家族から『利用料の軽減がなくなったら辞めさせるしかない』と相談も受けた。職員としてとても切ない」といった相談を取り上げ、フォローしている。
冊子は送料込みの実費で頒布中。希望者は160円分の切手と送付先を記したメモを同封し、JD(〒162-0052東京都新宿区戸山1-22-1℡03・5287・2346FAX2347)へ送る。ホームページ(http://www.jdnet.gr.jp/)で読むこともできる。

福祉新聞-2006.9.18

障害者自立支援法  10月施行へ最終案
課長会議「日払い」に緩和措置など

厚生労働省は8月24日、障害保健福祉関係主管課長会議を開き、障害者自立支援法の10月施行に向けて報酬や基準などの最終案を堤示した。また、今年4月から報酬の日額払いを導入したことに伴う影響緩和措置も追加的に用意し、新しい事業体系への円滑な移行を促す意向で、「もうこれ以上の追加措置はない。当事者、事業者は上手にこの制度を使ってほしい」としている。

厚労省「もう追加措置はない」

同日の会議で示されたのは、10月施行に関連する事項の最終案だ。事業者が新しい事業体系に円滑に移行できるようケアホームの夜間支援体制の強化、入所施設における夜勤や強度行動障害者対応への評価、生活介護・施設入所の報酬算定要件の緩和、障害児施設の利用者負担の軽減などについて説明した。
ケアホームの夜間支援体制加算は障害程度区分4以上の人に算定されることとなっていたが、区分2と3を追加。入所施設における強度行動障害に関する加算措置は1人につき一定額を加算する方式に改め、生活介護・施設入所の報酬算定は重度障害者の割合にかかわらず報酬区分を選べる仕組みを導入した。
就労継続支援事業の要件も緩やかにした。同事業のA型は就労移行支援事業を利用したり、学校卒業後に就職活動を行っても雇用に結びつかなかった人などを対象に雇用契約に基づいて就労支援する事業だが、従来的に雇用関係に移行することが期待できる「雇用によらない人」を特例として対象に加えた。
その場合の要件は①雇用による利用者の定員が10人以上②雇用によらない利用者の定員が、雇用による利用者の定員が、雇用による利用者の定員の半数未満(最大でも9人)③作業場所、作業内容が明確に区分されること――で、工賃の実績は雇用による利用者へ賃金のみを対象にする。
また、A型では営業活動などにあたる「障害者以外の人」も雇用することが可能。当初案では上限は定員の2割だったが、見直し案は雇用による利用者の定員が10~20人の場合は上限を5割にするなど大幅に緩和した。
雇用契約に基づかない同事業のB型も、対象者の範囲を広げた。当初案は①就労経験者であって年齢・体力面で一般企業での雇用が困難な人②就労移行支援事業を利用した結果、B型の利用が適当と判断された人③①と②に該当しない人で50歳に達している人または障害者基礎年金1級受給者―が対象だった。
今回、この3つのほかに「地域に一般就労の場やA型の事業所による雇用の場が乏しく、雇用が困難または就労移行支援事業が少なく、利用することが困難と市町村が判断した人」を、08年度末までの経過措置として追加した。
4月施行分については、報酬の日額払いを導入したことに伴う事業者の大幅な収入減をカバーするため、入所施設やグループホーム・ケアホームの利用者に対する入院時の支援加算、通所施設における家庭訪問の評価や定員規制の緩和を追加的に設けた。
また、利用日数率の低い施設に従前の収入の8割を保障する3年間の激変緩和措置については、07年度が7割保障、08年度が6割保障となる予定だったが07年度以降も8割保障を維持するよう改めた。
中谷比呂樹・障害保健福祉部長は会議の冒頭、「今回の措置は最終的なもので、これ以上はない。これにて打ち止めにし、制度をひとまず安定させたい。自治体は円滑な施行を目指し、当事者と事業者はこの制度を上手に使いこなしてほしい」と話した。
なお、厚労省は障害者自立支援法に関連する①報酬や基準②就労支援事業会計処理基準の創設─について、パブリックコメントを募集している。①は9月15日まで、②は9月22日まで。詳細はhttp://www.mhlw.go.jp/public/index.htmlに。

福祉新聞-2006.09.04