●「代理記載」本格導入

 「久々に一票」と難病患者に喜び「ハードル高い」との声も

今回の参院還から本格的に導入される「代理記載制度」。重い障害を持ち、寝たきりなどで投票所に行けず、自筆もできないため、事実上参政権を奪われていた人たちの制度だ。道内にも久々に一票を投じる喜びをかみしめる難病患者がいる一方、新制度でもまだ、救われない人たちがいる。「私たちの一票への思いをしっかり受けとめほしい」切実な声が聞こえる。

 「これで一票を投じることができる。こんなにうれしいことはない」。札幌市豊平区の元短大講師宮本すみ子さん(五七)は、自宅の介護ベッドに横たわったまま、単語を一つ一つ絞り出すように語った。

 五年前の春、突然腰に力入らなくなった。思うように歩けず、一ヵ月もしないうちに車いす生活に札幌や九州などの病院転々とし、二年後にようやく病名が分かった。筋萎縮性則索硬化症(ALS)。前身の筋肉が徐々に衰える難病で治療法はない。今では寝たきりになり指先をわずかに動かせる程度。呼吸補助器なしには声を出すこともできない。かすかに動く左手でパソコンを操作する宮本さん。5年ぶり投票に向けて「候補の訴えを入念に調べたい」という。

 病気になる前は、欠かさずに投票所に足を運んでいたが、発病後は疎遠に。今回から、夫の代筆で五年ぶりに一票を投じる。豊平区役所から郵便投票と代理記載の申請書類を取り寄せ、手続き中だ。「病気になって初めて見えたことがある。介護制度在宅での二十四時間介護ができず、家族に重い負担を強いるし、福祉も十分はいえない。きちんと考えてくれる人に一票を入れたい」と決意を込める。

 一方、今回の制度でも救われない人がいる。制度の対象者は障害者手帳の交付や、要介護認定を受けていることが条件だ。筋ジストロフィーなどの難病患者の多くは、その日体調で外出ができたり、寝たきりになど、障害者認定が難しく、必ず障害者手帳の交付が受けられるわけではない。

 北海道筋ジストロフィー協会の竹田保本部長は「代理記載は投票のための第一歩だが、まだハードルが高い。多くの筋ジス患者は適用を受けられない」という。

 自らも筋ジス患者の竹田さんは、「手帳ではなく、その人の体の状態を見て判断してほしい。基準を設けるのは不正防止のためだろうか、一票を投じたい人の権利を保障することをためらわないで」と訴える。

宮本さんもこう話す。「体が自由に動かせない人にとって、選挙は社会参加できる唯一の機会。重く切実な一票なんです」


代理記載制度

 郵便投票ができる有権者のうち、両腕のまひなどで投票用紙に白筆できない人が、任意の有権者に代筆してもらえる制度。公選法は、重度障害で投票所に行けない人のための郵便投票制度を設けているが、不正防止のため有権者が自分で書くことが条件。投票所行けば、立会人による代筆も可能だが、寝たきりなどで外出が難しい障害者や難病患者は事実上投票機会を奪われていた。

 また、代理記載制度新設に伴い、郵便投票の対象も拡大。従来の両下肢や移動機能、心臓などの障害者を持つ人に加え、要介護5の認定を受けた人、免疫障害者で1−3級の人にも対象を広げた。制度を利用するには投票日の4日前までに、各市町村選管へ事前申請を済ませることが必要。


北海道新聞 2004.7.2(金)