支援費、介護保険統合について 

増えても使えぬ事業所 少ない選択肢

親自ら設立を模索も

 札幌市北区の主婦、本宿和江さん(四八)「支援費って早いもの勝ちなんですね」とため息をつく。
 昨年末、重度障害者の二男(一五)のためにヘルパー派遣してもらうことにした。月百十時間と決まり、事業所を探してが、ことごとく断られた。「障害者に慣れた所は制度が始まってすぐ満杯になったそう」と肩を落とす。
 道内にある支援費の居宅支援事業所は約二千。行政がサービス内容を決めていた措置制度のころに比べ、七割も増えた。しかし、「大半はもともと高齢者にサービスを提供する事業所」(道障害者保健福祉課)。
 制度スタート直前、参加する事務所が少なかったため、国は介護保険事業所から、支援費事業でも無条件でホームヘルプができるようにした。しかし、道央の知的障害児の母親(四二)は「看板は揚げていても、自閉症児のケアを断る事業所もある。利用できるところは少ない」と話す。
 「支援費の事業所は経営が苦しい」と、札幌で在宅サービスの事業所を運営する障害者は言い切る。「楽してもうけるなら、障害の軽い人の身体介護をすればいいのだが・・・。それでは、受け皿の少ない二十四時間ケアの必要な重度障害者が困る」と明かす。
 実際、「採算が合わないので、夜間、ヘルパーを派遣する事業所は少ない」。そのため、札幌で一人暮らしをする、手足が不自由な六十代男性は夜間、トイレを失敗しても下着を替えられなった苦い経験がある。
 追い打ちをかけるように二月下旬、厚生労働省は事業所に支払う報酬の引き下げ案を示した。夜間、早朝の加算も見直し、サービスが長時間になるほど減額幅が大きい。
 道医療大の横井寿之教授(障害者福祉)は「報酬引き下げより、入所施設に偏重した予算配分の見直しが先決」と指摘する。
 新年度の国の支援費予算三千五百億円のうち、地域で暮らすための費用は約千二百億円で、対象者は十七万五千人。入所施設は十四万三千人なのに、約二千三百億円に上る。単純に一人当たりに換算すると、地域が約七十万円、施設が約百六十万円と、倍以上の聞きがある。「入所施設の予算を一割回すだけでかなり違う」と力説する。
 横井教授が注目しているのは、滋賀県が十月から始まる「福祉特区」だ。障害者が入所施設から自宅に戻る夏、冬にホームヘルプや通所施設を使えるようにする。月単位で支払われていた入所施設の経費を日割りにして、在宅サービスに回すのだ。
 七日、札幌で滋賀県の担当者を招いて勉強会が聞かれた。釧路や千歳などを含め約四十人が参加。熱心に聴講した「ネットワーク地域で暮らせる札幌をつくろう!」の燕信子代表は、知的障害児の母親仲間らと事業所設立を目指す。「利用できる所がないなら自分たちで作らなきゃ」と笑う。ヘルパー一級の取得を目指し勉強中。障害の有無にかかわらず困っている人を受け入れるつもりだ。
 札幌市厚別区には四月一日、特定非営利活働法人「わーかーびぃー」がオープンする。スタッフは道央の社会福祉法人などで働いていた十七人で、大半が二十代。地域の知的障害児を預かるデイサービスとホームヘルプなどを展開する。支援費制度が始まり「地域に密着したサービス提供したい」という思いが、収入も下がり身分も不安定な道を選ばせた。
 支援費制度は、課題を抱えながらも、地域に新しい福祉サービスの芽をはぐくんでいる。

北海道新聞 2004.3.13(土)



先進地℃D幌でも不信感

サービス格差 客観的な決定機関を

 自ら描いた利尻富士の絵を飾ったワンルーム。重度脳性まひの山本真理子さん(四九)のお城≠セ。昨年十月、約二十年間暮らした空知管内栗沢町の施設を出て、念願の一人暮らしを始めた。その場所は栗沢でも、入所前に住んでいた稚内でもなく、札幌だった。
 山本さんの生活には二十四時間の介助が必要だ。稚内に支援費制度の利用を打診したところ、「月に百万円かかり、財源不足で国の負担分も全額交付されるかどうか分からず、難しい」と言われ、断念した。市内には夜間、緊急時を除いてサービスの支給を受けられる事務所もない。
 札幌市の知人宅に身を寄せ、住民票を移して、市にサービスの支給を申請した。月に百時間のヘルパー派遣を受ける。「家族がいればともかく、私のような一人者の重度障害者は稚内では暮らせません」と振り返る。
 障害者の地域生活支援に取り組む札幌の社会福祉法人アンビシャス職員、小貫晃一さんは「札幌では以前から、山本さんのような重度障害者へのヘルパー派遣制度が整っていたので、、地域で暮らしたい障害者が集まってきた」と話す。
 ところが、障害者が暮らしやすいとされる札幌市でも、身障者へのサービス支給量の格差をめぐり波紋が広がっている。
 それは、市が新年度から、重度脳性まひと、人工呼吸機を使う障害者合わせて六人に対するヘルパー派遣時間を増やす方針を決めたからだ。いずれも月三百六十時間から月四百五十時間に拡大する。一日当たり三時間増え十七時間になる。
 一方、市は昨年四月の支援費導入以降サービスを申請した人には、重度でも月二百七十時間を上限としている。今回の上乗せの対象にもならない。
 市障害保険福祉課は「六人は『最重度』の障害者なので、優先させた。二百七十時間のサービスを受けている人に、最重度の人はいない」と繰り返し説明する。
 しかし、六人の一人で重度脳性まひの坂内洋士さん(四二)は一日、市役所前で抗議の座り込みを行った。「二十四時間ケアはもちろん欲しいが、自分と同じかそれ以上に重い人はほかにもいる。市は特定の障害者だけを優遇しているのではないか」と不信感を募らせる。
 サービスの格差があるのは、札幌市ばかりではない。道央で働く女性ヘルパー(四八)は「同じような年齢や障害でも、訪問する家庭で、サービスの支給量が異なり驚くことがある」という。別の福祉関係者は「自治体の窓口によっても違うが、控えめな人やサービスの内容よく知らない人は支給が少なくなることもある」と打ち明ける。
 こうした不透明な状況を改善するにはどうしたららいいのか。
 釧路で知的障害児のデイサービス事業など手かける民間非営利団体(NPO)法人ネットワークサロン事務局代表の日置真世さんは、公正、中立な立場でサービスの支給を決定する機関の必要性を訴える。「利用料を負担する行政でもない、サービスを提供する事業所でもない、客観的な視点で見ることが必要」と提言する。

北海道新聞 2004.3.12(金)



「ゆとりある生活いつまで」

見込み違い 制度改正で埋没$S配

「念願の電動車いすサーカーができるてうれしい」。サーカーボールを追って走り回るのは千歳市で暮らす筋ジストロフィーの吉田聖(たから)さん(四一)、哲夫さん(三六)兄弟だ。運動施設まで自宅から車で五分の距離が壁だったが、支援費制度で夢がかなった。
 それまで月一三時間だったヘルパー派遣が、十倍に増えたからだ。ヘルパーの手を借りるのは朝夕の着替え、週一回の入浴ぐらいだったが、今では気軽に車で外出もできる。二人の世話に追われ続けた母親(六三)も「友達と出かけられようになりました」と笑顔で語る。
 吉田さん親子は、ゆとり満喫しながらも、「この暮らしが将来も続くだろうか」と不安になる。吉田さんの受けているホームヘルプサービスの利用が急増し、国の支援費予算が本年度、約百三十億円も不足しているからだ。
 国の見込み違いを札幌市の委託を受けた支援費相談室「ぽぽ」の大久保薫室長は「埋もれていた需要が一気に噴出した」と解説する。以前の措置制度では「行政側が考える最低限のサービスしか提供されなかった」のに対し、障害者が自ら必要なサービスを選べるようになった結果、「積極的に要望を聞く」(道障害者保健福祉課)自治体も目立つ。
 道によると、道内で支援費の居宅サービスを受けているのは、措置時代にくらべ四割増の一万七千人円(昨年九月)。一人当たり月額は七割増の約五万七千円に達する。
 厚生労働省は「将来的な財源確保は容易ではない」として、高齢者用の介護保険制度との統合で財政の安定を図る考えだ。二〇〇五年の介護保険見直しに向け、主な検討課題の一つになっている。
 実際、身体障害者の六割を絞めて六十五歳以上は現行制度でも、支援費ではなく介護保険の対象となっているため、統合へ道筋はつけやすいというのが国の考えだ。若い障害者も対象になるので、保険料徴収年齢を四十歳以上から「二十歳以上」に拡大する案も伴せて検討されている。
 しかし、障害者団体の多くは統合に否定的だ。全国自立生活センター協議会(東京)のアンケートでは、「反対」が八割を越えた。
 札幌市豊平区で一人暮らしする車いすの男性(六六)も、その一人だ。「サービスの低下が怖い」と対象年齢の六十五歳になっても介護保険を拒み、支援費の適用を受けている。
 男性の障害を介護保険の基準に照らすと中程度。そうなるとヘルパー派遣は、現在の月三百八十時間の四割になってしまう。同市は「介護保険で足りない分は支援費で補う」と説明するが、「将来も保障されるか分からない」と気持ちは変わらない。
 一月下旬、障害者団体と厚労省側が定期的にに話し合う「地域生活支援の在り方針検討会」で、支援費制度の見直しが提示された。同協議会の中西正司代表は「統合を前提にした議論は承知できない」と強い拒絶姿勢を打ち出した。
 障害者インターナショナル(DPI)日本会議(東京)三沢了事務局長も、介護保険の対象が二千四百万人なのに対し、支援費は四百万人と少数派になる点を指摘。「財源不足は分かるが、障害者施策が埋没する懸念は消えない」と話す。
 一方で、「統合は弱者に住み良いまちつぐりを統合的に進めるチャンス」「反対する人は税を使っているという意義が薄い」などと、前向きな団体もある。
 障害者の暮らしが、制度改革の波に揺れている。

北海道新聞 2004.3.11(木)


障害者支援財源不足に 利用急増想定を上回る

国は介護保険と統合検討

 障害者が自ら必要なサービスを選択する支援費制度が、スタートから一年足らずで暗礁に乗り上げている。ヘルパー派遣などの利用が国の想定を大幅に上回り、予算不足に陥ったためだ。打関策として、厚生労働省は介護保険制度との統合など検討しているが、障害者からは必要なサービスが受けられなくなるのではと心配が強い。支援費制度の仕組みを紹介するとともに、課題を採る。
 支援費制度は昨年四月に導入された。本年度から十年間の施策を定めた国の「障害者基本計画」は、障害者の視点に立ち、地域で暮らすための支援体制充実を重点課題に挙げている。利用者がサービスを主体的に選ぶ支援費は、こうした設策を実現する手段として期待されている。
 しかし、利用が急増し、財源不足が問題になっている。中でも障害者の地域での生活を支えるホームヘルプサービスは本年度未に事業費が約七百六十億円に達する見込み。このため半分負担する国の予算は約百三十億円足りなくなるという。
 この半面、利用者からは評価されている。障害者インターナショナル(DPI)日本会議が昨秋、地域で暮らす身体障害者を中心とする四百七十人を対象に行ったアンケートでは、支援費制度になってサービスが「良くなった」「少し良くなった」と答えいた人が計48%と半数を占めた。一方、「悪くなった」「少し悪くなった」は計13%だった。
 良くなった点(複数回答)は、サービスの「利用時間が増えた」「希望した時間帯に使える」を上げる人が多かった。逆に悪くなった点として、「事業所がない」「自己負担額が増えた」などの指摘があった。
 支援費の対象は身体、知的障害者と十八歳未満の児童者。精神障害者は含まれていない。しかし、受け皿整えば退院可能な人が全国で約七万人おり、こうした人たちが地域で暮らせるよう、対象にすべきだという声が、介護保険との統合論議の中で上がっている。
 道医療大の谷中輝雄教授(精神障害福祉)は、精神障害者を支援費制度に組み入れることに賛成だ。「地域で暮らすための設備、仕組みはまだ乏しいので、他の障害者並みにサービスを充実させるべきだ。医療との連帯も必要」と提言する。

制度を利用の障害者は−何よりもうれしい入浴 ヘルパーたちは「家族」

 障害者は地域でどんな生活をしているのか。支援費を使って札幌市内でヘルパー派遣を受け、2LDKのマンションで一人暮らしをする、手足が不自由な六十代男性の一日は−。
 午前八時、ヘルパーの訪れとともに起床。身支度を手伝ってもらう。朝食をとり、障害から来る腰痛を迎える薬を必ずのむ。マッサージを三十分受けた後、車いすで十分ほどの作業所に同十時ごろ到着。人形作りなどを知的、身体障害者の仲間とともに取り組む。
 午後三時に帰宅。ヘルパーとともに、近くの店で食料品などを買う。同五時から二時間、入浴。ヘルパー二人が介助する。「週六日風呂に入れるのが何よりうれしい」という。
 七時から約一時間かけて、ヘルパーが作った料理を食べる。好きなテレビ番組はスポーツニュース。ひいきの野球チームは巨人。脳こうそく梗塞で倒れた長嶋成雄さんの病状が気になる。寝るのは午前零時ごろ。
 交代で訪れるヘルパーは五人。時間帯は午前八−十時、午後四−七時、七−十一時。全員、三、四年の付き合いで気心も知れ、「家族のようなもの。」時にはけんかもするという。生活費は障害基礎年金と生活保護など約二十万円で賄っているという。


 制度を使いたい時はまず、利用者が必要なサービス選ぶ。@市町村の窓口に申し込むと、職員などが、家族がどの程度介助できるか、本人がどんな生活を望んでいるかなどを調べる。Aこれを基に、市町村はサービスの時間や日数を決める。B利用者は事業者を選んで契約を結び、Cサービスを受ける。D収入に応じて決められた利用料を支払う。


北海道新聞 2004.3.11(木)