● 自治体に共同要求も NPO「4条取得は墜落」

初日の地域交通セミナー(福祉交通支援センター主催)には介護タク事業者、NPO、行政(中部運輸局、同整備局、自治体等)、交通実務者など約180人が参加。パネル討論が行われ、パネラーとして介護タク事業者代表の山崎廣志・山崎自動車工業社長、移送NPO代表の荻野陽一・世田谷移動サービス協議会副代表、利用者代表の小川泰子・社会保障審議会介護保険部会委員、市民活動代表の田中尚輝・市民福祉団体全国協議会事務局長、学識者の高橋万由美・宇都宮大学助教授が出席。本紙の武本英之編集局取材部長が司会した。

 討論では、4月の制度改正に伴う福祉輸送サービス供給者の現状認識として、営利の青ナンバーと非営利の白ナンバーが同一土俵に複数混在していることを確認した上で、今後の供給者のあるべき姿を論議した。

 札幌で介護タクシーとNPOの共同配車センター設立を準備中の山崎氏は「タクシーの利点は24時間営業、機動力、プロの人材の存在の3つ。一方、NPOはリフトやスロープ付きの車を多く抱えている。双方の利点を合わせることが外出支援の充実につながる」とし、開設の見通しは「NPOの80条許可取得が共同配車の前提だが、自治体が運営協議会の設置に腰が重いのでまだ時間はかかる」とした。また「タクシーの売り上げが冷え込んでおり、札幌ハイヤー協会が移送に関する委員会を設置、協会として福祉輸送に力を入れる方向だ」と述べた。

 NPOのまとめ役の田中氏は「タクシー業界はNPOが活発になると会社がつぶれると心配しているが、NPOはもうけるつもりは全くない。タクシーだけで需要に間に合えばNPOは1台もやらなくて構わない。共同配車の仕組みの中でNPOの供給量を調整することは十分できる」と青ナンバーのタクシーが前面に出るよう促した上で「今後シニアマーケットがどんどん拡大するが、一部介護タク事業者以外は企業努力をしてこなかった。普通の生活に必要なあらゆる移動ニーズにこたえる総合生活移動産業としてタクシー業界を立て直すことが必要だ」と注文した。

 NPOが道運法4条・43条を取得し青ナンバー化が進む方向について同氏は「NPOの助け合い精神から4条取るのは墜落だ。青ナンバー1台を取って白ナンバーを抱えたいと言っているNPOに、私はストップをかけている。移動サービスのNPOは80条許可1本でいくべきだ」と強調。また「タクシー業界とNPOが組んで地域輸送の決定権を持つ自治体に政策要求していくべきだ。タクシー業界とNPOが分断されたままでは政府と市場の失敗を拡大させるだけ」とした。

● 運営協設置、働きかけ急げ

世田谷区で共同配車を検討する荻野氏は「区内6つのネットワーク団体で共同配車を試行してきたが昨年、地元の個人タクシーが参加するなど時代が確実に動いている。センター設置にはNPOだけでは供給力が足りない。事業者の社会的資源を一緒にしないと飛躍しない。利用者に対しては車以外のプランも作りたい」と述べた。

 福祉輸送を運営する財源の問題について、小川氏は2006年4月の介護保険制度改正の審議動向を示した上で「介護保険の内と外にある福祉予算全体のスキームの見直しが必要だ。そうしないと自治体の地域福祉計画も実行されない」と考えを示した。

 NPOの80条許可申請を承認する自治体の運営協議会の設置について高橋氏は「協議会運営にはお金がかかるが、自治体では12月の予算編成が多い。そのためには今から働きかける必要があり、動かないと猶予期間の2年は直ぐ経ってしまう」と述べた。

 会場参加の全国介護移送協議会の黒田司郎会長は「共同配車センターは利用者利便のため必ず必要と感じた」とし、近畿地区での設置を示唆した。

 パネル討論に先立ち、谷口昭広・愛知淑徳大学医療福祉学部教授(自立生活問題研究所所長)が「社会福祉基礎構造改革における移動弱者の地域生活問題」〜好きな時に好きな所へ好きな方法で好きな人とを保障する〜をテーマに基調講演した。

 また倉内文孝・京都大学大学院工学研究科助手が「ロンドンにおけるSTSの現状」と題し海外研究を報告、「ロンドンにはタクシーカード施策があり、高度移動障害補助受給者など4万3000人以上の会員がタクシー運賃の大部分を減額されている。高齢者を運ぶ316台のDaRバスもあるが、両者はどちらもドアツードアサービスなのに一体化しておらず、2つのサービスを統合したプロジェクト実験が行われている」と述べた。

● 福祉車両や移動情報支援機展示

「TRANSED2004国際会議」の一環で23、24の両日、アクトシティ浜松の展示イベントホールで福祉車両・移動情報支援機器、街作り情報などの展示会が開催された=写真。福祉車両のコーナーではトヨタ、日産、ホンダ、スズキ、日野などがワゴン昇降シート車など最新型の福祉車両を展示、海外の福祉関係者が熱心に見て回った。

 街作りコーナーでは、国土交通省中部整備局が名古屋のITS、遠州鉄道が公共交通利用のためのICカード機器、北海道開発技術センターがデマンド型移送サービス「フレ愛りんりんバス」とデマンド型移送ルート決定システム「おてらくガイド」を紹介した。