その他情報(2006年6月~8月)

道路のバリアフリー化  拡幅困難には特例検討
国交省懇談会が初会合

国土交通省は9日、「道路空間のユニバーサルデザインを考える懇談会」(座長=久保田尚・埼玉大大学院 教授)を設置し、初会合を開いた。
懇談会は、歩行空間のバリアフリー化率が2005年度末時点で39%にとどまり、鉄道駅の段差解消(79%)などに比べ大きく遅れていること、今年6月に「高齢者・障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」(バリアフリー新法)が制定されたことなどを受け、歩行空間のバリアフリー化に関する課題を整理するとともに、道路の移動円滑化基準や整備ガイドラインを見直すために設置された。
バリアフリー新法では、バリアフリー化の重点整備地域が駅などの旅客施設周辺地域から、官公庁・福祉施設などから徒歩で移動する範囲に拡大されたほか、バリアフリー化した道路を維持すること、すべての道路でバリアフリー化に必要な構造基準を満たす努力をすることが盛り込まれた。
また、電柱などが有効幅員の確保に支障となる場合は、電柱などを撤去させることや、国道・県道についても市町村がバリアフリー化を進めることができるようにもなった。
懇談会はこうした状況を受け、道路のバリアフリー化をさらに進めるための方策を検討するが、特に問題となるのは、沿道に建物が並んでいるために道路の拡幅が困難な既存市街地の道路の整備。
懇談会では、これを解決するために、現行の道路円滑化基準で「2㍍以上」としている歩行者の交通量が少ない道路の幅員について「1.5㍍以上」にできる特例を設けること、歩道の設置が困難な道路は自動車を減速させるための措置を講じることなどを新たに規定することを検討する。
懇談会は10月中旬をめどに移動円滑化基準を見直し、その後、整備ガイドラインの見直しについて検討する。

福祉新聞-2006.08.28

人口減と福祉を議論
セミナー400人集う  自立支援など課題に

鉄道弘済会の第43回社会福祉セミナー「人口減少社会と社会福祉」が2・3両日に都内で開かれ、400人以上が参加した。
基調講演した京極高宣・国立社会保障・人口問題研究所長は、人口減少が始まったことについて「21世紀は今までの人口を維持することはできない。人口減少がどれだけ急速に、または緩やかに進むかが問題。数字だけの議論ではなく、望ましい社会のあり方が問われる」と指摘した。
また、今後の福祉の課題について「低所得者への配慮、サービス利用と負担の社会的公平性、そして中核となるのは自立支援の考え方。自助、公助、共助の3つで自立生活を目指すべきだ」と述べた。
シンポジウム「人口減少社会と私たちの暮らし」では、樋口美雄・慶應義塾大教授が労働経済学の観点から発言。「人口減少に伴い労働力人口の減少が懸念されているが、どのような政策がとられるかで労働力人口は変わってくる」と指摘し、政策転換により働く高齢者が増加傾向にあるフランスの例を紹介した。
また「出生率の減少を女性の社会参加が原因とする見方があるが、先進国では働く女性が多いほど出生率も高い。少子化対策としては働き方の見直しが重要で、ワークライフバランス推進基準法を制定すべき」との考えを述べた。
ソーシャルワーカーの池田恵利子・いけだ後見支援ネット代表は、福祉サービスを受けられず認知症の母親を息子が虐待死させた事例を報告し、「現実には親が嫌いという例はほとんどなく、所得の問題が大きくかかわっている。行政が専門的相談支援をしていれば防げた問題ではないか」と問題提起した。
また、自立支援の流れに取り残されている人の問題について「社会参加する意欲は放っておけばできるのか。利用者をエンパワメントするのが福祉関係者の役割で、すべての人が自分の力でサービスを使えるよう支援が必要」と述べた。
一方、地方自治体の立場から阿部孝夫・川崎市長は「生活保護のニーズが増えている。受給者の多くが高齢者、単身者、失業者、病弱者。社会構造として受給対象者が増えている」と指摘。「財政収入が増えない中で公的サービスをどれだけ充実させるかは難しい問題」だとして「自助、公助、共助のバランスでサービスを充実させることが必要」と述べた。

福祉新聞-2006.08.21

福祉・労働・教育で連携  研究会発足
障害者の就労促進へ

障害者の雇用・就労を進めため、福祉と労働分野が連携した研究会の発足が相次ぐ中、養護学校など教育分野とも連携・協力しようと「第1回福祉・教育等との連携による障害者の就労支援の推進に関する研究会」(座長=松矢勝宏・目白大教授)が7月31日に開かれた。
研究会に集まったのは福祉、労働、教育の各分野における就労支援のエキスパートたち。しかしメンバーからは「それぞれ同じような事業をしているのに、住み分けは複雑」「自分たちの分野のことには精通していても、他分野の同職種の人をよく知らない」といった声が上がった。
このため研究会では、まずは各分野における就労支援の現状と課題を、ヒアリングを通じて整理することから始める。ハローワーク、養護学校ほか、福祉施設や民間企業などから話を聞き、雇用サイドから福祉サイド・教育サイドへどのような働きかけをしているかを把握する。
また、今後の支援策の方向性を打ち出すために関係機関の役割を明確化することも検討課題とする。具体的には、障害者職業センター、障害者就業・生活支援センター、障害者雇用支援センターがそれぞれどのような役割を発揮すれば効果的なネットワークを作れるかを模索する。
さらに、就労支援に携わる人材の役割や専門性についても検討課題とする。雇用、福祉、教育などの関係分野で共通して求められる人材像を整理し、その育成・確保の在り方を中長期的な視点で検討する。
研究会は年内にヒアリングを行い、そこで出た論点を整理した上で来年6月ごろ報告書をとりまとめる予定。
なお、研究会にはオブザーバーとして文部科学省の特別支援教育課も参加している。
座長以外のメンバーは次の通り。▽石井紀夫・横浜市精神障害者家族会連合会長▽小川浩・大妻女子教授▽佐藤宏・職業能力開発総合大学校非常勤講師▽志賀利一・電機神奈川福祉センター常務理事▽末永太・日本労働組合総連合会総合労働局雇用法制対策局部長▽高井敏子、加古川障害者就業・生活支援センター長▽武田牧子・桑友理事▽時任基清・日本盲人会連合副会長▽中井志郎・かんでんエルハート代表取締役▽原智彦・都立あきる野学園養護学校主幹▽原田雅也・全日本手をつなぐ育成会理事▽東馬場良文・全国社会就労センター協議会調査・研究・研修委員会筆頭副委員長▽松為信雄・東京福祉大教授▽松井亮輔・法政大学教授▽宮崎哲治・東京障害者職業センター次長▽森祐司・日本身体障害者団体連合会常務理事▽山岡修・日本発達障害ネットワーク代表▽輪島忍・日本経済団体連合会労政第1本部雇用菅理グループ長

福祉新聞-2006.08.14

障害者基本計画  わかりやすく表現  当事者の要望で
中央施策推進協  理解促進に活用

政府の「中央障害者施策推進協議会」(会長=京極高宣・国立社会保障・人口問題研究所長)の第2回会合が7月26日、首相官邸で開かれ、現行の障害者基本計画を平易な文章で示した「わかりやすい『障害者基本計画』」が示された。昨年5月に開かれた第1回会合で、知的障害のある当事者委員から要望が出されたことを受け作成したもので、内閣府では障害者基本計画を広く理解してもらうための資料として活用する。

漢字にも読みがな

同協議会は2004年6月に改正された障害者基本法で「内閣総理大臣が障害者基本計画の案を作成、変更する際に意見を聞くための機関を設ける」とされたことを受け、05年5月に内閣府に設置された。当事者12人、家族3人を含む計30人で構成され、当面は03年度を初年度とする10年間の基本計画の進ちょく状況や障害者施策を巡る課題などについて意見交換することが主目的になっている。
同日の会合で示された「わかりやすい『障害者基本計画』」は、昨年開かれた第1回会合の場で、知的障害のある当事者委員から「言葉が難しくて基本計画の内容が分からない。誰もが分かる文章にしてほしい」と要望が出されたことを受け、作成したもの。
漢字にはすべてルビをふり、例えば、基本計画の原文で「IT革命への対応」「経済自立基盤の強化」と記載されている重点課題については「みんながパソコンやインターネットなどを自由に使えるようにします」「障害のある人が自分で暮らすために必要なお金を得ることができるようにします」など分かりやすい表現に変えている。
「わかりやすい基本計画」について委員からは、作成を歓迎する声が相次いだ。また「障害者の『害』という文字をそのまま使うことがよいのか」といった意見も出され、今後の検討課題とされた。
「わかりやすい基本計画」は近く内閣府のホームページで公表される予定で、内閣府では基本計画を広く理解してもらうための資料として活用する。
同日の会合ではこのほか、障害者施策を巡り「障害者が社会に出る前に職業訓練を行う場が必要」「勤務先までの交通費が給料を上回る。助成してほしい」などの意見が出された。
特に障害者自立支援法を巡っては、関係者の理解や準備が不十分な中で急いで施行されたこと、利用者負担が増大したことへの不満や不安が当事者委員などから出された。
また潮谷義子・熊本県知事は「現場は大変混乱している」とし、同県でも施行状況や問題点などを把握する考えを示し、「国もしっかり現状を把握してほしい」と要請した。
なお、会合の冒頭で小泉純一郎首相は「子どもと大人で見る感じが違う。ましてや障害のある人と、ない人では全然違ってくると思う。障害者の立場に立って、互いに助け合いながら、社会参加できる道を探りたい」などとあいさつした。

福祉新聞-2006.08.14

障害者雇用率  短時間労働の適用を検討
厚労省、研究会立ち上げ  派遣先企業への支援策も

厚生労働省は7月28日、「多様な雇用形態等に対応する障害者雇用率制度の在り方に関する研究会」(座長=岩村正彦・東京大大学院教授)の初会合を開いた。民間企業における障害者雇用を促進するため、短時間労働者(週20~30時間)を雇用率制度の適用対象とすることや、障害者が派遣労働者として働く場合の派遣先企業に対する支援策などを検討する。
研究会は、雇用全体に占める短時間労働者や派遣労働者の割合が増えていることを背景に、こうした雇用形態で障害者の就労を促進するため、企業への支援策を検討する目的で発足した。
障害者雇用促進法に基づく雇用率制度は、事業主に対し一定割合の障害者の雇用を義務づける。民間企業の法定雇用率は1.8%だが、2005年6月現在の実雇用率は1.49%にとどまる。産業別では「医療・福祉」が1.80%で最も高く、「情報通信業」が1.12%で最も低い。
実雇用率の算定は、常用労働(週30時間以上)の身体・知的・精神障害者をそれぞれ1人として算定する。重度の身体・知的障害者は特例として常用労働で2人分、短時間労働で1人分をカウントできる。
精神障害者については、改正障害者雇用促進法により06年度から実雇用率の算定対象となり、短時間労働でも0.5人分にカウントできるようになった。
一方、障害者雇用納付金制度では、法定雇用率を達成していない企業(301人以上)から不足1人あたり月額5万円の納付金を徴収し、それを雇用率達成企業に調整金や報奨金として支給している。
研究会では、現行だと雇用率や納付金の適用外となる身体・知的障害者(重度以外)の短時間労働の位置づけを見直すとともに、障害特性を踏まえて週20時間未満労働への支援策も検討する。委員からは「短時間で働きたい障害者は多く、ぜひ実現してほしい」と意見が出された。
また派遣労働では、労働者は派遣元企業と雇用契約を結ぶため、障害者が実際に業務に就く派遣先企業では実雇用率にカウントできない上、納付金制度による助成も受けられない。
そのため派遣元企業だけでなく、派遣先企業に対しても雇用率や納付金を適用できないか検討する。研究会では年内にも、障害者の派遣労働の実態調査を行うこととしている。
さらに、精神障害者らがグループで指導員の支援を受けながら就労し、常用雇用への移行を目指すグループ就労訓練についても支援策を検討する。
研究会は今後、関係者のヒアリングを行った上で年明けに論点整理し、6月をめどに報告書を取りまとめる予定。鳥生隆・高齢・障害者雇用対策部長は「検討結果を踏まえ、法改正も視野に入れて障害者の雇用促進を図りたい」とした。
座長以外のメンバーは次の通り。
片岡卓宏・日本身体障害者団体連合会副会長▽北浦正行・社会経済生産性本部社会労働部長▽斉藤好・花椿ファクトリー代表取締役社長▽末永太・日本労働組合総連合会総合労働局雇用法制対策局部長▽鈴木孝幸・日本盲人会連合会理事▽舘暁夫・全国精神障害者家族会連合会雇用就労委員会委員長▽松友了・全日本手をつなぐ育成会常務理事▽宮武秀信・世田谷区立知的障害者就労支援センターすきっぷ施設長▽八木原律子・明治学院大助教授▽輪島忍・日本経済団体連合会労政第1本部雇用管理グループ長

福祉新聞-2006.08.14

中小企業の障害者雇用促進へ
納付金制度を見直し  厚労省、研究会立ち上げ

厚生労働省は7月25日、中小企業における障害者雇用を促進するための研究会(座長=今野浩一郎・学習院大教授)を立ち上げた。民間企業における障害者の実雇用率は2005年6月現在1.49%だが、企業の規模別に実雇用率の推移を見ると、1000人以上の大企業で上昇しているのに対して300人未満の中小企業では下降という実態がある。その要因を分析し、複数の企業で仕事を出し合って雇用機会を作る方法や企業への助成拡大を検討する。

共同で就労機会提供も

研究会発足の背景には、近年の障害者の就業に対するニーズの高まりがある。障害者雇用促進法の改正と障害者自立支援法の施行は「雇用・就労の促進」を政策の方向性として明確に位置付けた。
05年6月現在、民間企業に勤める障害者は約27万人(重度障害者をダブルカウントせず実数にすると19万7388人)。法定雇用率1.8%を達成している企業の割合は42.1%。前年調査と比べると、実雇用率は1.46%から、達成企業の割合は41.7%から、それぞれ上昇した。
しかし、企業の規模別に見ると、一律に上昇傾向にあるわけではない。実雇用率は1000人以上規模の企業で1.65%と平均を上回るが、逆に100~299人規模の企業では1.24%に落ち込んでいる。
研究会の設置目的は、特に実雇用率が低下傾向にある中小企業をターゲットに雇用促進を図ることだが、なぜ中小企業で雇用が低下してきたのか、その要因をデータ分析から探ることにも力を入れる。
また、大企業と比べて経営基盤が弱い中小企業の特性を踏まえながら、どのような雇用支援策を強化すれば有効かを検討していく。
具体的には「複数の企業が仕事を出し合うことで雇用を創出できないか」「中小企業に助成を拡充してはどうか」といったことが課題に挙がっている。
現行の障害者雇用納付金制度では、法定雇用率を達成しなかった企業から不足1人につき月5万円の納付金を徴収。これをプールし、達成企業へは超過1人につき月2万7000円を「調整金」として支給している。4%を超えて雇用している中小企業へは、超過1人につき2万1000円の「報奨金」も支給している。
ただ、この制度は301人以上規模の企業から納付金を徴収しているもので、中小企業からは納付金を徴収しておらず、調整金も支給していない。
このため研究会では、納付金徴収・調整金支給の対象を中小企業に広げることを検討することにしており、鳥生隆・高齢・障害者雇用対策部長は「検討結果によっては法改正も視野に入れる」としている。
なお、年内は障害者雇用に積極的な事業主、障害者就労の支援機関など関係者からのヒアリングを行う。
同日の研究会では、藤原治・全日本手をつなぐ育成会理事長から「企業で働く障害者本人から『こういうふうに環境を変えてほしい』といった声を聞くと参考になるのでは」と提案があり、小川榮一・日本身体障害者団体連合会長も賛同。当事者ヒアリングも設けられる方向だ。
毎年6月現在の雇用状況調査が年末にまとまることから、来年1月以降は論点整理した上で検討を進め、6月ごろ報告書をまとめる。
座長以外のメンバーは次の通り。
▽小川榮一・日本身体障害者団体連合会長▽金子鮎子・全国精神障害者家族会連合会雇用就労委員会委員▽倉知延章・九州ルーテル学院大教授▽小林文雄・日本盲人会連合会総合企画審議会副委員長▽佐藤健志・日本商工会議所産業政策部課長▽末永太・日本労働組合総連合会総合労働局雇用法制対策局部長▽原川耕治・全国中小企業団体中央会調査部長▽藤原治・全日本手をつなぐ育成会理事長▽堀江美里・中野区障害者福祉事業団事業主任・就労支援主任コーディネーター▽森戸英幸・成蹊大法科大学院教授▽輪島忍・日本経済団体連合会労政第1本部雇用管理グループ長

福祉新聞-2006.08.07

学生無年金障害者訴訟
「大法廷で弁論を」 原告団、最高裁に要請

30人の障害者が2001年、全国9地方裁判所にいっせい提訴した「学生無年金障害者訴訟」が、最高裁判所に判断を求める段階に入った。原告団と弁護団は、無年金者を生まない年金制度への改正と障害者の人権・所得保障を求め、上告審での勝訴を目指している。7月23日に都内で開いた集会を起点に、最高裁へ出向き「大法廷での弁論と公正な判決を」と要請する行動と、10万人を目標に署名を募る運動を始めた。

10万人目標に署名運動

学生無年金障害者問題は、年金制度の発展過程で制度に谷間ができたことから生じた。
1961年にすべての国民が年金を受けられるようにするため国民皆年金制度ができ、成人からの保険料徴収が始まった。ただし学生は例外で、任意加入で良いとされた。卒業後、就職時に加入するのが一般的だった。
しかし91年の制度改正で、学生でも20歳になれば強制加入となった。
このため、20歳以上の学生で、保険料を拠出しないまま事故などで障害を背負った場合、未加入を理由に障害基礎年金が受給できない状況が生まれた。
一方、社会政策的な配慮から、20歳未満で障害を負った場合には、未拠出でも障害基礎年金が給付されている。
原告らは「制度の欠陥が無年金になった原因」「制度が周知徹底されていなかった」などとして、年金不支給処分の取り消しと国家賠償を国に求め、2001年7月、各地裁でいっせい提訴に踏み切った。一連の裁判が制度改善の突破口になると考えたからだ。
これに対し、国は「保険料拠出が年金給付の要件」という制度論を堅持しており、これまでに各地裁・高裁が出した判決も判断が分かれている。
東京、新潟、広島の3地裁は「任意加入制度の改正を怠ったのは国の立法不作為で違憲」と国家賠償を命じたが、いずれも国が控訴。控訴審では「合理性はあった」と地裁判決が取り消された。
現在高裁で審理中のものも順次判決が出る予定で、原告が勝訴すれば原告が上告し、今後1年以内にすべての訴訟が最高裁に係属することになると見られる。
こうした経緯から全国の原告、弁護団、支援者ら320人が7月23日に都内で集会を開き、運動方針を固めた。
原告の会代表の阿部正剛さんは「筆舌に尽くしがたい生活実態を知ってもらいたい」と訴え、一行は翌24日、最高裁へ「大法廷での口頭弁論と道理ある判決を求める要請書」を提出。今後も要請行動を繰り返す。
弁護団によると、現在は3事件が小法廷に係属しており、過去の最高裁判例も覆すには大法廷へ移すための運動から始める必要があるという。「最高裁が弁論を開くと連絡してくれば、高裁判決を見直す展望が出てくる」と見る。
そのため学生無年金障害者訴訟全国連絡会では10万人を目標に署名を募っており、吉本哲夫会長は「障害者の所得保障と人権保障を司法に問うていく大事な裁判」と署名への協力を呼びかけている。
署名運動の問い合わせ=学生無年金障害者訴訟全国連絡会電話03・3207・5937ファックス5628

福祉新聞-2006.08.07

東京の特養  入居者に性的暴言
「絶対、見たら訴えられる。へへへ」

東京都東大和市の特別養護老人ホーム「さくら苑」(入居定員80)で、男性職員が認知症の女性入居者に対し性的な虐待発言をしていたことが5日明らかになった。施設の介護内容に不信を抱いて家族が用意したテープに録音されていた。施設側は家族に謝罪するとともに職員らを処分。東京都は、虐待が繰り返されていた可能性もあるとして近く立ち入り調査する。介護施設での高齢者への虐待は表面化しづらいため実態がわかっておわず、具体的証拠で裏付けられるのは珍しい。(清川卓史)

男性職員ら処分  都、立ち入り調査へ

被害にあった女性(90)は要介護5の寝たきりで言葉も不自由。長女(58)によると、オムツに排泄物がたまっていたり、手にアザが残っていたりすることが重なり、数年前から施設側に訴えてきたが相手にされなかった。認知症が進み本人に確かめることもできないため、小型のテープレコーダーをベット近くに隠したという。
問題の発言があったのは今年1月下旬の夜、オムツ交換の時間帯。30歳と21歳の男性職員2人の会話だった。先輩職員が女性の名前を呼んで性的な行為を要求。「あっ、起きた」の声の後、この職員は後輩に「この前、やってくれたんだよ」「絶対、見たら訴えられるみたいな。へへへ」と話し、過去に性的虐待をしたとも受け取れる発言をした。笑いも変えながらのやりとりだった。
この直前には、オムツ交換中のにおいを「毒」「サリン」などと話す2人の会話も録音されていた。女性の声はテープでは聞き取れなかった。
長女の相談を受けたNPO法人「特養ホームを良くする市民の会」(東京都新宿区)が7月、都に通報した。都と東大和市、女性の住所がある世田谷区の3自治体は、4月に施行された高齢者虐待防止法の「性的虐待」に当たると判断し今月4日、施設を運営する社会福祉法人多摩大和園の足利正哲常務理事らに女性の安全確保と事実確認を指示した。
同苑によると、30歳の職員は勤続4年目でヘルパー2級の資格をもつ。施設の事情聴取に対し「男同士の介助で気がゆるんでしまった」と発言を認めたため、玉川桜子苑長らは4日、家族に謝罪した。ただ実際に性的行為はしていないと話しているという。
同法人は5日、緊急理事会を開き、この職員を出勤停止7日間、後輩職員を同5日間、足利、玉川両氏を減給10%(1カ月)などとする処分を決定。第三者を含む「調査委員会」を立ち上げるほか、職員全員を対象にした虐待防止研修など、再発防止策に取り組むことを決めた。
足利氏は理事会後「利用者の人権を重視していたのに非常に残念。こういう事実は想像もできないかった」と話した。これに対し長女は「自分の親があんな仕打ち受けたらどう感じるか、職員は自分の身に置きかえてほしい。処分は軽すぎて再発防止にはならない」と施設側の対応を批判した。

「氷山の一角」表面化まれ

介護施設での虐待は、認知症などで被害者本人に確認することが難しいケースが多い。施設側も隠そうとするため、昨年2月、石川県のグループホームで職員が入所者に暖房器具の熱風を当てて死亡させた事件のように表ざたになるのは、ごく一部だといわれる。
ただ、高齢者処遇研修会が99年、全国2千の特養を対象にした調査(回答率34%)では約3割が「期待がある」と回答。連合が04年に行った介護職員5千人の実態調査(同55%)では、5%が介護放棄・暴言・暴力で入所者を虐待したことがあると答えている。
特養ホームを良くする市民の会の本間郁子理事長は「認知症や介護度の重い人が増えるなか、施設職員の心理的虐待や性的虐待は家族も気付きにくく、今回は氷山の一角だろう。劣悪な介護が施設全体に広がっていた疑いがある。高齢者虐待防止法を絵に描いた餅に終わらせないため、原因や背景を徹底的に調べてほしい」と話している。

朝日新聞-2006.08.06

発達障害の支援強化
予算への具現化を検討  対策推進本部

厚生労働省はこのほど「発達障害対策線戦略推進本部」(本部長=戸苅利和・事務次官)を発足させ、来年度予算への要求事項の検討に入った。推進本部設置のねらいは、2005年4月に施行された発達障害者支援法を踏まえ、乳幼児期から成人期までの各ライフステージに対応する一貫した支援を強化すること。構成も職業安定局、社会・援護局など関係部局を横断している。
推進本部が設置されたのは、発達障害者の乳幼児期から成人期までを一貫して支援するには医療、保健、福祉、就労など制度横断的な調整が必要になるからだ。
発達障害者支援法では、自閉症やアスペルガー症候群、学習障害、注意欠陥多動性障害など、通常低年齢で発現する脳機能の障害を「発達障害」と定義している。
ただ、その診断や治療に関しては医政局、障害児保育に関しては雇用均等・児童家庭局、成長して就労支援や職業訓練が必要になると職業安定局といったように、ライフステージによって施策を主管する部局が分かれているのが現状だ。
このため、推進本部には職業安定局長、雇用均等・児童家庭局長、社会・援護局長ほか、関係する部署の部局長や課長が名を連ねた。また専門家として国立精神・神経センター総長や高齢・障害者雇用支援機構理事長らも加わった。
推進本部での検討事項は、児童の発達障害の早期発見と早期の発達支援、保育、放課後児童健全育成事業の利用など。発達障害の特性に応じた就労機会の確保、地域生活支援などについても検討する。
課題の1つには、医学的対応が挙げられる。子どの心の診療に携われる小児科医や精神科医をどう養成するかについては別途開かれている有識者による検討会で協議する。
また、学校を卒業してからの雇用促進・就労支援にも期待が寄せられているところだ。
一方、7日にまとまった政府の「骨太の方針2006」には「診断・療育手法の確立や地域支援体制の整備など発達障害児・者に対する専門的な支援を推進する」「各府省による障害者の受け入れ実習事業の実施、発達障害者の就労支援、自立支援のためのネットワーク構築など、障害者や病気等になった人を政府一体で支援する」といった発達障害者への支援策を充実する方針が盛り込まれた。
推進本部では現在、どのような施策を来年度予算で具現化させていくか検討中で、8月末に示す厚労省分概算要求に本部の検討結果を反映させる考えだ。

福祉新聞-2006.07.24

消費税の目的税化  税調、中期答申で容認へ
具体的内容には触れず

政府・税制調査会(石弘光会長、首相の諮問機関)は14日、総会と基礎問題小委員会を開き、9月にまとめる中期的税制改革の在り方の答申に向けた議論を行い、答申の大枠を固めた。
会合後の記者会見で石会長は、骨太の方針2006」で示された歳出・歳入一体改革の7原則と関係づけて答申をまとめるとともに、消費税の社会保障目的税化について盛り込む考えを示した。
消費税の目的税化については賛否両論あるが、石会長は「今後増えていくのは、歳出では社会保障給付、税収では消費税。上がるもの同士リンクは当然あり、説明しやすい」とし、社会保障目的税化を容認。ただ、社会保障給付のうち何を対象にするのか、程度の上げ幅にするのか、導入の時期はいつにするのかといった具体的制度設計については、踏み込まない考えも示した。
また石会長は、格差社会を是正するための税制や高齢者の負担と受益の在り方などが今後の論点となるとし、9月から調査会での議論を再開するとした。

福祉新聞-2006.07.24

受刑中の知的障害者支援へ
福祉と法務の連携探る厚生労働科学研究  実態把握し再犯防止

刑務所内の知的障害者処遇の実態や、出所後の地域生活支援の在り方を模索する厚生労働科学研究が始まった。福祉的支援の必要な人たちがなぜ刑務所へ入ることになったか、また刑務所内でどのように過ごしているか、実態は公になっていない。社会適応訓練も身元引き受け人もないまま出所した人が再犯に至るパターンも多いが、課題は福祉と法務の谷間にまぎれている。研究班は谷間の問題をえぐり出し、福祉と法務の連携施策づくりにつなげることを目指す。
「虞犯・触法等の障害者の地域生活支援に関する研究」は、田島良昭・南高愛隣会理事長が主任研究者を務める。3年間の研究事業で、2006年度は初年度に当たる。
研究メンバーは福祉分野のほか、更生保護や犯罪学の専門家ら。受刑中の体験を「獄窓記」(03年発行)にまとめた山本譲司・元衆議院議員も参加する。
山本氏は服役中、障害者や認知症の人ばかりを集めた工場の介助係に配属された。著書では、身寄りのない人は満期出所の末に再犯率が高い状況や、刑務官には障害に対する知識がないことなどに触れている。
矯正統計年報によると、03年度の新規受刑者は3万1355人。知能指数を見ると、6959人(22%)がIQ69以下だった。知的障害の疑いのある人が、少なくとも毎年7000人程度は刑務所へ入っている。大半は窃盗などの微罪だ。
これまで福祉サイドではこうした実態を把握しておらず、法務サイドからの情報提供・協力依頼もなかった。そのため、反社会的問題行動を防いだり、出所者を福祉につないだりする仕組みも整っていない。
いわば「福祉の世界では居ないことになっていた人たち」の行き場が、矯正(刑務所)か医療(精神科病院)になってきたのが実情と見られる。
研究班は、刑務所への入所・後戻りを防ぐ視点で、実践を通し地域生活支援の在り方を探る。出所後の生活についての相談や進路指導、社会適応能力の判定などコーディネート役のモデルを示したい考えだ。
また、IQで判断する法務サイドと、社会的に障害を見る福祉サイドの基準が異なるため、共通のものさしを持てないか検討する。
南高愛隣会(長崎県)の場合、精神科病院に入院している知的障害者を福祉に移す取り組みや、子どものケースでは家庭裁判所の審判を施設で行ってもらい、少年院でなく福祉施設に引き取る試みをしてきた。
田島理事長は「司法や医療との連携を考え続けてきた」と話す。一方、障害者自立支援法の障害程度区分でこうした人たちの支援の必要性が認定されるかは疑問があるという。「福祉サービスに乗れるような程度区分にすべき。新しい施設を作るのではなく、就労支援事業などを利用できるようにしたい」とした。
今年度は問題を洗い出すことに力を入れ、刑務所内の知的障害者の現状、更生保護施設の実践例、福祉施設でのトレーニング内容など実態調査に着手。刑務所から受け入れなかった事例も把握する。マンパワーの面では、刑務所と福祉施設の職員配置、両所をつなぐ人的配置の必要性なども研究対象とする。
最終的には施策化を目指すため、助言者として厚生労働省と法務省も研究班にかかわる。

福祉新聞-2006.07.17

障害者雇用率  未達成企業2社を公表
厚労省指導も改善せず

厚生労働省は6月30日、障害者雇用促進法による指定雇用率1.8%達成していない上に障害者を雇い入れる計画も守らなかったとして、2社の企業名を公表した。
2社は、学習塾の(株)ウィザス(大阪市中央区)と、石油製品小売業の両毛丸善(株)(栃木県足利市)。
2006年4月現在、ウィザスは労働者554人対して障害者が4人で実雇用率0.72%、両毛丸善は労働者890人対して障害者が6人で実雇用率0.67%だった。
企業名の公表に至ったのは、2社とも、繰り返しの指導があったにもかかわらず雇用率の改善が見られなかったからだ。
厚労省の指導経過によると、01年に所官の職業安定所長から障害者雇い入れ計画の作成命令を出し、3年間の計画を実施。途中、計画を実現するよう勧告もしたが、改善が見られないまま計画期間は終わり、05年から特別指導に入っていた。
特別指導とは、改善しなければ企業名を公表することを前提に行う最後の猶予期間で、当初は24社が対象になっていた。このうち22社については、雇い入れ計算開始時に0.38%だった実雇用率が1.47%にまで改善したが、2社については変化がなかった。
2社とも「障害者向けの求人を出したが、求人条件や職務の見直しが十分でなかったために採用に至らなかった」としている。

福祉新聞-2006.07.17

宇都宮事件国賠訴訟
市、知障者の訴え否定「生活実態知らなかった」

誤認逮捕・起訴によるえん罪を免れた重度知的障害のある吉田清さんをめぐって、清さん側が「行政が福祉的支援を怠ったことが事件に巻き込まれた根底にはある」として、宇都宮市と市の福祉幹部に損害賠償を求めた国家賠償訴訟の第2回口頭弁論が6月29日に宇都宮地方裁判所(福島節男裁判長)であった。
前回、被告の市側は訴状の内容について「調査が必要なので時間が欲しい」と認否を見送っていたが、今回は改めて訴えを否定し、争う姿勢を示した。
強盗のえん罪という刑事事件が福祉行政を訴える民事裁判に発展したのは、事件当時、清さんが暴力団関係者に養子縁組され、暴力下、複数の障害者とアパートで共同生活しながら障害基礎年金を吸い上げられていた実態があるからだ。
福祉とのつながりを持っていなかった清さんは、コミュニケーションがうまくとれない中、廃品回収をしたりしているうちに窃盗で検挙されることが多く、強盗の容疑をかけられるきっかけも生じた。
ただし、市側は、こうした経緯を全面的に「知らない」「市が支援を怠った事実はない」と否定している。
市側の反論の大筋は、「このころ原告は生活保護を受けておらず、障害福祉の支援策も適用されていなかった。だから原告の生活実態について知らなかった。養父に障害基礎年金を搾取・横領されていたことも知らないから、それを容認するはずもない。救助や援護が必要かどうかも全く分からなかった」という主張だ。
また、清さんが暴力団関係者に養子縁組されていたことに関しても、「市長には届け出の受理に際して形式的審査権しかなく、実質的な有効性を判断する立場にない」とした。
一方、裁判長は、市が「障害福祉の支援策が適用されていなかったから生活実態を知らなかった」と繰り返したことに対して「『障害福祉の支援策』とは何か、市の福祉の体系について具体的に説明を」と注文。どこまで福祉行政に支援の義務があったのかも今後整理していく。
市の反論を受け、清さんの弁護団は徹底的に反証していく姿勢だ。次回の口頭弁論は9月に行われる予定。
なお、宇都宮家裁は6月26日に養子縁組について、「無効」判決を出し、清さんは本来の吉田姓を取り戻したばかりだ。

福祉新聞-2006.07.10

養子縁組は無効  知障者の訴え認める
宇都宮家裁「意思能力なかった」

障害年金を目当てに本人の意思と関係なく勝手に養子縁組をされたとして、重度の知的障害がある鈴木(旧姓吉田)清さん(55)が養父(58)を相手に養子縁組の無効を訴えた裁判で、宇都宮家庭裁判所(近田正晴裁判官)は6月26日、「原告は重度の精神遅滞で養子縁組をする意思能力はなかった」として養子縁組を無効とする判決を下した。清さん側は養子縁組を黙認し福祉の支援をしてこなかった宇都宮市に国家賠償請求訴訟を起こしており、弁護団は「無効判決は大きな意味を持つ」とみている。
弁護団によると、養父が清さんとの養子縁組を宇都宮市役所に届け出たのは2001年4月。清さんは福祉の受け皿がなく精神病院で約13年間の社会的入院を送り、退院後に暴力団関係の養父に囲われた。養父は市に「面倒をみる」といって養子縁組し、清さんの障害年金など月約8万8000円を横領した。
養父は暴力を振るい、食事も十分にさせなかった。清さんが強盗のえん罪をかけられ逮捕・起訴された05年3月の「宇都宮誤認逮捕・起訴事件」は、生活費に換えようと空き缶や新聞を拾い集めて徘徊していた状況の中で起きた。
さらに養父はほかにも知的障害者ら5人と養子縁組し、年金や生活保護費を搾取していた。清さんの養子縁組届の証人は、2人ともアパートで共同生活していた知的障害者だった。
養父は清さんが養子縁組を十分認識していたと主張したが、判決は「原告に養子縁組という抽象的概念を認識できる能力があったとは到底考えられず、仮に原告が養子縁組に署名・押印したとしても、内容を理解していなかったというべき」と判断した。
無効判決について弁護団は「知的障害者が司法手続きでいかにハンディを持っているか認識された。似た境遇の人や支援者にとっても意味は大きい」とする。
清さん側は市と市保険福祉部幹部に対しても、養父による搾取を知りながら養子縁組を黙認・放棄したとして、損害賠償と慰謝料約820万円を求める国賠訴訟を起こしている。
弁護団は、今回の判決が福祉行政の責任を問う国賠訴訟に与える影響は大きいと見込む。さらに、同様のケースは全国にあると考えられるため「こうした養子縁組が起きないためにはどんなチェック機能が必要か、福祉行政に警鐘が鳴らされている」とも訴えた。
「吉田清です」。判決後の記者会見では、自分の名前を取り戻した清さんに弁護団や支援者から「おめでとう」と拍手がわいた。清さんは現在、居宅支援サービスを受けながら市内で地域生活を送っている。
誤認逮捕事件の後に成年後見人となった石川恒さん(知的障害者更生施設かりいほ施設長)は「清さんの人間らしさを取り戻し始めた1年だった。同じような問題を抱えた人がたくさんいると思うが、福祉の課題として取り組むことが必要」と話した。
知的障害者の親の立場からコメントした松友了・全日本手をつなぐ育成会常務理事は「公的福祉サービスでサポートされていない人たちの問題が大きい。セーフティーネットからこぼれた人に行政支援がきちんとなされるべき」と述べた。

福祉新聞-2006.07.03

バリアフリー新法  成立
重点整備地区を拡大  住民から基本構想提案も

「バリアフリー新法」(高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律)が15日の衆議院本会議で全会一致で可決、成立した。2000年に成立した交通バリアフリー法の見直し時期に当たり、ハートビル法と一本化させたもの。
交通バリアフリー法もハートビル法も身体障害者を主な対象として規定していたが、新法の対象は、名称で「障害者等」とされたように身体障害に限定しない。
新法のポイントは、2法を一本化させたことによって、移動と施設利用の両面から整備を進める点だ。
これまで駅を重点に置いたバリアフリー化が想定されてきたが、新法では重点整備地区のとらえ方を広げ、駅を含まなくても、病院や福祉施設、駐車場が集中するエリアなどを整備地区に指定できるようにする。
同様に、駅から徒歩圏外に官公庁があるようなケースでも、ノンステップバスで駅とエリアをつなげるなど経路を確保することで整備を進めていく。
こうした基本構想を作るのは市町村の役割だが、新法では計画段階から当事者が参加する仕組みが法定化された。住民側が基本構想を作ろうと提案することもできるようになる。
ただ、ハード面のバリアフリー化が進んでも、理解が浸透していないために利用を拒否されたケース、建物の前まで行けても中は利用できなかったケースなども現実にはある。
そうした当事者からの報告を受け、衆議院では、バリアフリー化が必要な施設の中にホテルの客室を加えるよう検討することや、事業者・管理者が電動車いすの利用を正当な理由なく拒否しないよう指導することなどが付帯決議に盛り込まれた。
なお、交通バリアフリー法の基本方針では「1日当たりの平均利用者数が5000人以上の鉄軌道駅、バスターミナル、旅客船ターミナル、航空旅客ターミナルについては、10年までにすべてバリアフリー化を実現する」という目標が設定されていた。
その対象施設(2832カ所)のほとんどを鉄軌道駅(2758カ所)が占めているが、06年版障害者白書によると、鉄軌道駅のうち段差の解消が実現した駅は49%にとどまっている。身体障害者用トイレの設備も33%だった。また、乗り物自体のバリアフリー化は車両が28%で、ノンステップバスの導入は12%だった。

福祉新聞-2006.06.26

知的障害者  刑事弁護マニュアル
大阪弁護士会実践踏まえ解説

大阪弁護士会はこのほど「知的障害者刑事弁護マニュアル」を発行した。
障害の特性を理解した弁護活動の参考にしてもらおうと、実践経験を踏まえてまとめたもの。知的障害者関連の刑事弁護についてマニュアルが作られたのは全国でも初めてのこと。
知的障害者は犯罪に巻き込まれても被害を訴える力が乏しかったり、不審者に間違えられたりするケースがある。さらには、警察官や検察官に障害を気付かれないまま、罪をかぶせられるケースも起こり得る。
特に、栃木県宇都宮市で起こった誤認逮捕・起訴事件は「知的障害者が巻き込まれた典型的な冤罪の構図」と受け止められ、大阪弁護士会が発行を急ぐ契機にもなった。
こうした実態を踏まえ、マニュアルでは知的障害者が被疑者・被告人になった場合にどう弁護活動を工夫すべきか、コミュニケーション方法などをQ&A方式で整理した。特徴的な行動や記憶の特性、質問するときに配慮すべき点などをまとめたほか、事例集や参考資料も盛り込んである。
作成にあたったプロジェクトチームは「知的障害者の事件が目立ってきている。これは障害に対する合理的配慮がなされず、刑事手続きの中に埋没していたものが表面化したと見るべき」としており、マニュアルの活用を呼びかけている。
A4判で134ページ。1冊2100円。書店では販売していないため、注文は発行元のSプランニング(TEL・FAX/03.3766.1636)まで。

朝日新聞-2006.06.12

毎年7千人入所
『知的障害の受刑者 支援へ』

知的障害がある受刑者らの自立支援策と再犯防止をさぐる厚生労働省の研究班が6日、発足する。毎年、知的障害があるとみられる人が新たに7千人ほど刑務所に入所しているが、支援体制が未整備で、出所後の生活に行き詰まるケースが多いという。そこで刑務所の内外の連携を深め、地域で暮らすための福祉を充実させ、自立を支える仕組みを検討。モデル事業を長崎県で今秋から始める。(生井久美子)

厚労省が研究班・モデル事業
住宅・就労ケアし再犯防止

法務省の矯正統計年報によると、04年に刑務所に入った新受刑者は約3万2千人。うち入所時の知能検査で知的障害の目安となる知能指数69以下の人は7172人、22%を占めた。知的障害がある可能性が高く、特別な支援がいる人たちだ。
これまで、法務・厚労の両省間にこうした人たちに関する情報の共有がなく、出所時の支援や、次の生活につなぐ仕組みも整っていなかった。
このため研究班では、まず刑務所での処遇など障害者の実態を調査。さらに、9月にも長崎県で、入所中から福祉施設の職員が出所後の住宅や就労などの希望を聞き、ケアをするモデル事業を始める計画だ。社会福祉法人が身元引受先になることも検討。課題を整理したうえで、全国に広げていく考えだ。
研究班発足のきっかけは、秘書給与詐欺事件で逮捕された元衆院議員の山本譲司さんが服役体験を03年にまとめた著書「獄窓記」。多くの知的障害者や認知症の人たちが入所し、その介助を受刑者がしている問題を指摘した。山本さんは「無銭飲食や万引きなど比較的軽い罪がほとんど。本来福祉の支援を受けるべき人が刑務所に入り、職員は知的障害の知識がない。出所時も福祉との連携はなく、結局困り果てて再犯……。福祉の貧困の象徴だ」と語る。
研究班は、長崎県の社会福祉法人南高愛隣会の田島良昭理事長を中心に、山本さん、福祉、厚生保護、犯罪学などの専門家で構成。厚労・法務両省の担当者もアドバイザーとして加わる。
中央大の藤本哲也教授(犯罪学)は「福祉や犯罪学でも注目されてこなかった『忘れられた人々』といってもいい。当たり前の支援をすれば相当数を刑務所から救い出せる。福祉関係者が、法務行政と連携して改善をめざすのは画期的だ」と評価する。

朝日新聞-2006.06.05