●寄稿 介護保険制度見直しによせて

  支援費との統合は混乱と不安を招く

竹田 保氏  ホップ障害者地域生活支援センター代表理事

 昨年度末、厚生労働省は支援費の財源不足からホームヘルパーやグループホームなどの居宅支援費の単価切り下げを発表しました。しかし、障がい当事者の大反対に遭い、ホームヘルプサービスの上限問題に続いてまたも撤回しました。

 最近は、介護保険と支援費の統合が障がい者へのサービスを保障するためには避けられない、ということが論理展開され、入所施設を解体して地域生活を実現するための資金を捻出するためにも積極的に統合すべきという、障がい当事者にとっては反対しにくい論理が前面に打ち出されてきました。

 福祉関係予算の削減をどうしても行いたいという厚生労働省の意思の表れだと思いますが、保険方式へと障害者サービスを誘導することに疑問を感じます。

 介護保険との統合で、サービスを受ける利用者が一定負担するのは必然であり、福祉サービスは限られた財源の中で提供しなければならず、負担と削減は避けられないということですが、サービスがなければ生活を維持することができない私たち障がい当事者としては、全体的にサービス削減につながる今回の動きを容認するわけにはいきません。

 介護保険には、支援費の理念である「施設から在宅」「当事者の主体性の重視」という視点が薄く、費用負担でも高齢者と比較して障がい者の保有資産は少なく、所得基盤が低いのが現実。重度障がい者が応益負担に耐えることは難しいと思います。

 介護保険と支援費の統合議論の中で、二十四時間介助を必要とする全身性の障がい者に対する在宅生活の保障には、介護保険の給付上限額ではすぐに不足してしまい、二階建て給付や利用上限額の見直し議論、また、介護保険にはない社会参加の保障についても、現在の通院等乗降介護の単価を引き上げたうえで、支援費の移動介護と同じようにホームヘルプサービスとは別枠で認めるなど整理が必要です。

 障がい当事者の多くは、米国で始まった自立生活運動に強い影響を受けセルフケアマネジメントを目指していますが、支援費サービスが始まって一年を経ていない現在、セルフケアマネジメントはまだ始まったばかりです。支援費サービスの理念が一般に理解されたとは言えない今の段階での介護保険との統合議論は、利用者に混乱と不安を与えるばかりです。

 議論を深めながら問題点を明らかにした上で解決策を見いだし、地域で誰もが暮らしていくための支援について考えなければ、はじめに結論ありきのアリバイを作っているようにも感じますし、何よりも責任を自治体と市民に押しつけることになります。

 保険方式の前提は、誰もが平等にリスクを負担することと、財源の安定が図られることです。生命保険では、障がいを受傷している人は平等性の原則に反するということで契約を拒まれることがあります。全身性の障がい者の場合、月に数百万円もかかる費用支出に対して全体理解を受けることができるのか疑問です。支援費との統合には、障がい者の地域生活を積極的に展開していくという姿勢よりは、若年者を介護保険制度に組み込むことで収入の安定を図るための方便としか思えません。

 介護保険が始まって四年が過ぎましたが、重度の介助を必要とする利用者は、家族介護か施設入所しか、いまだに方向が見えません。介護保険の理念として説明されていた介護の社会化が現実のものとして見えてくるためには、外出機会を増やし社会参加を助長し施設や家族に頼らない介護を実現するような支援が必要だと思います。

 そのためにも、移送サービスの公的位置づけ、ヘルパー移動時間の報酬単価、痰吸引等の医療的ケアをヘルパーに認めるなどの利用者、事業者双方のニーズを明確にした上で見直しを進めていく必要があると思います。

 障がい者が高齢者になったときに、介護保険サービスが有意義に見える青写真が提示されれば、統合議論にも積極的にかかわっていけるのだと思いますが、残念ながら今の統合議論では、介護保険が見えてきません。

介護新聞 2004.7.8(木)