●対アジア経済連携交渉 深い溝

  国内規制変更、難航も

 自由貿易協定(FTA)を含む経済連携協定(EPA)の話し合いが、日本アジアの4カ国との間で今月に入って相次いで開かれている。話し合いのペースは上がっているが、タイがコメの関税撤廃を求めるなど、相手の要求がはっきりするにつれ、溝も目立ってきている。

 現在のEPA交渉は、関税撤廃を内容とする自由貿易協定に加えて人の移動や投資のルールなど各国の国内規制の変更まで範囲を広げている。

コメ関税

 焦点の一つは農産物だ。15日まで東京開かれたタイとの4回目の交渉で、タイが提出してきた要求内容はコメ、でんぷん、砂糖、鶏肉の関税撤廃。農水省にとって「到底受け入れられない内容」(幹部)だった。
いずれも日本にとっては世界貿易機関(WTO)新ラウンドで、関税の大幅削減の対象から外すよう全力を挙げてきた品目ばかりだ。これまで、「日本の重要品目に配慮する」と繰り返してきたタイが手のひらを返したのには情報がある。
 タイは安全保障で面倒を見てもらっていた米国に、投資、サービスなどの分野で優遇措置を与えてきたが、今はその縮小を目指している。そこへ日本側から米国並みの優遇をするよう求められ、対抗上、日本の重要農産物に攻め込まざるを得なくなったとみられる。

看護・介護

 もう一つ焦点が看護・介護分野だ。世界各国に年間1万4千人以上の看護師を送り出すフィリピンは、外貨獲得手段として日本の市場開放に強い期待を寄せている。
 厚生労働省は「安易な受け入れは、国内の医療や介護の水準低下を招く」との立場をとりつつ、看護師と介護福祉士は一定条件の市場開放案を検討している。各国の有資格者から日本語が機能な人を選び、日本の医療機関で研修を受けて日本の国家資格をとった人に4年以上の在留を認めるものだ。
 フィリピン側はこの条件をほほ受け入れた模様で、今後は受け入れ規模や、日本での研修費用負担をどうするかなど条件闘争に移りつつある。

工業製品

 一方、日本からは各国に工業製品の関税の即時完全撤廃を求めているが、これも難問だ。
 日本の主力製造業である自動車では、各国とも強い保護政策を採り、マレーシアでは平均100%超える関税率を維持している。韓国との交渉は期限が来年だが、製造業で日本と競合するうえ平均税率が撤廃への道筋がまだ見いだせない。
 日本企業による投資への規制撤廃も日本の要求の柱の一つだが、例えばフィリピンは電方など公益事業への外資参入を憲法上禁止している。固有の事情を抱える各国の制度を変えるのは難しい面がある。
 交渉は関税撤廃品目リストの確認をはじめ膨大な作業を伴い、当初の見通しに比べ1カ月半以上遅れている。これから年末にかけ、アジア欧州会議(ASEM)、アジア太平洋経済協力会議(APEC)、東南アジア請国連合(ASEAN)プラス3(日中韓)と、首脳同士が顔を合わせる機会で、どの程度前進するかが注目されている。

朝日新聞 2004.9.16(木)