● SPコードで情報格差なくせ

  視覚障害者向けに「話す紙」

 切手大の模様を専用の機械で読みとると、約800文字分の文章が音声で再生される「SPコード」。視覚障害者が手軽に情報を手に入れられる新たな方法が、健常者にも注目されている。無料ソフトとパソコンで簡単につくれることから、障害者と交流するきっかけになるからだ。ただ、読みとり機は全国にまだ約3000台強しかなく、関係機関は普及に取り組み始めた。  (平田篤央)

  時刻表やメニュー、健常者も注目

 福井市の北陸高校JRC(青少年赤十字)部は5月、JR北陸線武生駅、敦賀駅発着の「音の出る時刻表」を作り、視覚障害者に配った。今後、対象の駅を増やしていく。同市のボランティア団体「みちしるべ推進委員会」が今年、県立盲学校の協力で福井駅の時刻表を作ったのが最初で、同部が「年間通じた活動に」と取り組んだ。

 SPコードの公式ホームページから作成ソフトをダウンロード。パソコンで文書を入力、クリックすれば一瞬でコードができる。

 部長の加藤穏江さん(17)は「意外に簡単だった。目の不自由な人に感謝されて、うれしい」。

 時刻表ははがき大で四隅にコードを印字。卵形の読みとり機に差し込むと列車名や時刻、番線が合成音声で再生される。市内のヘルスキーパー清水一己さん(35)は「使いやすさが魅力。飲み屋のメニューやCDの歌詞カードなどにも広がるといいですね」。

 視覚障害者が印刷媒体から情報を得るには、第三者に読んでもらうか、点字訳が必要だ。だが、厚生労働省によると、全国約30万人の視覚障害者で点字が読める人は約1割。また、納税や年金の通知、公共料金の請求書など自分自身で確認したい情報は、ほとんど点字訳されていないのが現状だ。

 点字が読める人が少ないのは、視覚障害者の4人に3人は60歳以上で、高齢になって白内障や糖尿病で視力を失った人が多いからだ。この傾向は強まっており、音声情報の重要性は増すばかりだ。

  行政・企業へ普及働きかけ

 SPコードが実用化されたのは02年4月。読みとり機は1台11万5千円(非課税)で、当初1年間は障害者団体や点字図書館などが計700台を配備した程度。昨年4月に厚労省の日常生活用具に指定され、1、2級の視覚障害者は補助が受けられるようになり、個人購入が約2500台に上った。それでも読みとり機を持つ視覚障害者は全体の1%に満たない。

 日本視覚障がい情報普及支援協会は「コード付きの文書をいかに増やすかがカギだ」(能登谷和則理事)として、日本盲人会連合と今後1年間、行政や企業への働きかけを強める。

 SPコードを取り入れる自治体や団体、企業は少しずつだが、増えている。

 製薬会社29社などでつくる「くすりの適正使用協議会」は、ホームページに掲載している約5600種類の処方薬の薬効などを検索できるシステム「くすりのしおり」で採用を決めた。6月以降、新規登録や内容を更新する薬から順次、SPコード付きの文書が印字できるようにする。

 宅配ピザ大手「PIZZA-LA(ピザーラ)」を展開するフォーシーズ(東京都港区)は、昨年12月からメニューに導入。商品内容や注文の仕方、キャンペーン情報などを記録する。

 自治体では、広報紙などに加え、納税通知(滋賀県八日市市)、施設案内のバリアフリーマップ(東京都江戸川区)など広がりも見せている。

 朝日新聞 2004.06.3(木)