●交通論壇

  北星学園大学助教授  島津 淳

 訪問介護報酬改定と通院等移送サービスへの大量参

1 訪問介護の報酬改定と経宮戦略

 厚生労働省老健局は、現在、本年6月から本格的に開始される社会保障審議会介護給付費分科会に向けて、介護報酬改定に向けた論点整理を行っているものと思われる。介護事業者が提供したサービスに対して支払われる報酬で、3年ごとに見直される。2006年4月の介護保険制度改正の中で、介護報酬は改定される。訪問介護の介護報酬は、昨年度の社会保障審議会介護保険部会の審議を振り返って推測を試みたい。

 ホームヘルパーが要支援・要介護者宅で身体介護・家事援助(生活援助)等サービスを提供する訪問介護の報酬について、サービス内容やその組み合わせによって単位額が決定する定額支払い制度に移行するものと思われる。現行の時間や回数に応じて支払われる報酬体系は、廃止されることになる。現行は、身体介護や家事援助(生活援助)の利用時間・回数が多いほど報酬が増える出来高払い制度の仕組みである。

 しかし、2006年度介護報酬改定後、訪問介護の報酬が定額制に移行するならば、訪問介護事業者の収入はかなり低下するものと思われる。訪問介護の報酬を定額制に移行される方向は、2006年度から介護保険制度に創設される新予防給付と制度上整合性を持った動きとなる。

 2006年度介護保険制度改正と介護報酬改定に向けて、訪問介護事業者にとって資本力のあるところと資本力のないところの経営戦略は違ったものとなる。資本力のある訪問介護事業者は、2006年度の改正で介護保険制度に創設される地域密着型サービスの中の居住系サービスに大量参入が行われるものと推測する。現在、訪問介護事業者に雇用されているホームヘルパーは、2006年度介護保険制度改定で創設される訪問・通所・宿泊・居住サービス部門を小規模・多機能化した居住系サービスの中で大量に雇用されると思われる。

 次に資本力のない訪問介護事業者は、移送サービスの取り込みを行っていくものと推測する。通院移送サービスを取り込んだ形で訪問介護サービスを総合化することで、資本力のない訪問介護事業者は生き残りをはかると思われる。また、病院に併設された訪問介護事業者は通院移送サービスを取り込むことで、患者利用者の囲い込みを行っていくものと思われる。

2 介護タクシー業界と2006年度に向けた戦略

 2006年度は、多種多様な経営主体にまたがる訪問介護事業者が通院サービスに大量に参入することにより、介護タクシー業界は相当の苦戦を強いられるものと思われる。

 しかし、通院移送サービスに参入する訪問介護事業者全てが道路運送法・介護保険法の基準を守るわけではない。現在、全国的な事例の中には、民間の訪問介護事業者が運輸支局から道路運送法上の許可を取得したにもかかわらず、都道府県庁には通院等乗降介助の届け出さずに、身体介護の中の通院介助で請求しているものが多数ある。また、民間の訪問介護事業の中には、NPO移送サービスを併設し、2006年度以降も身体介護の中の通院介助で請求しようとする動きもある。

 過去、バス協会は、白バスが横行した時、全国的に一斉に運輸支局、警察等に告発をしたことがある。介護タクシーは、業界を持っていない。しなしながら、都道府県、政令都市・中核都市にあるハイヤー・タクシー協会等タクシー業界を拠り所に、介護タクシーが中心となって、2006年度以降基準違反を行う通院移送サービスを行う訪問介護事業者の告発を行うことも検討してもよいと考える。タクシー業界である全国の自治体にあるハイヤー・タクシー協会が自分たちの領域を守ることが出来なければ、規制緩和のなかで過酷な労働環境にあるタクシー労働者の拠り所である労働組合が立ち上がるしかないとみる。

東京交通新聞 2005.5.30(月)