●交通論壇-近畿大学教授 三星 昭宏
福祉移送サービス運営協議会
自治体の役割大きく
地域モビリティー確保
筆者は有償福祉移送サービスを認める道路運送法80条の運営協議会設置を急ぐべきと述べてきた。また、この運営協議会は単なる許可のための組織ではなく、地域交通の問題点を明らかにし、今後の地域モビリティー確保の方策を考える場とすべきと主張してきた。この点について少し掘り下げてみたい。
そもそも何のために運営協議会が必要なのであろうか。第一に、道路運送法は道路の運送行為について定める法律であり、福祉的観点からの権利擁護やサービス確保を狙いとした法律ではない。福祉移送サービスというボランティア等によるサービスは、道路運送法改正前には想定されていなかった。これを法的に認知するためには地域で住民・関係者が集まり、その許可について必要性を論議し、その結果を踏まえて許可行為を行う必要があったのである。
第二に、すべての行政や法律がそうであるように、地域の問題を地域の人たちによりガラス張りの論議を経て地域が自己決定する時代がその背景にある。
このように考えていくと、運営協議会は国が決めたガイドラインの許可要件を機械的に審査する場ではないといえる。これでは協議会は国の「出先機関」ではないかと思えるようなケースもないではない。一方、福祉施策と混同して有償福祉移送サービス利用者を福祉分野でいうところの「高齢者・障害者」に限定するケースも問題があるといわざるを得ない。また協議会が、タクシー業界の既得の市場確保を主張する場となっているのではないかと思われるケースもある。もちろん法に照らし、地域の実情を考えてタクシー業界が主張すべき点を主張することはむしろ必要なことであるが、重要なことはタクシーだけでは経済的にも機能的にもカバーできない弱者のモビリティーを、それではどうして確保するかの前向きな論議をして許可に結びつけることが重要なのである。
一方、現行の仕組みでは前記のような総合施策を議論するおぜん立てがそろっているとはいえない。議論の直接的対象が有償福祉移送サービスに限定されているからである。バス、LRT、コミュニティバス、タクシー、自家用車利用及びその相乗りなど多様な地域の交通手段を想定し、多様な経営主体を想定し、多数の市民の協力を得て地域モビリティーを確保する総合的施策の中で許可が行われることが重要なのである。福祉移送サービスの運営協議会はおそらくそのようなベクトル(方向性)を打ち出し、近未来に新しい仕組みを準備する内容を内包すべきと思われる。その観点で、どのような検討事項が必要であろうか。
一つはニーズ論である。高齢者・障害者・一時的けが人など通常の交通機関が使えない人の生活実態、顕在ニーズ、潜在ニーズを定性的、定量的に十分把握すべきであろう。タクシー業界とのすみわけ問題も、けた外れに多い潜在ニーズの存在に問題を解くカギがある。
また交通ボランティア育成も重要である。いわゆる福祉移送サービスはNPO等の参加者、社会福祉法人等の協力なしに成り立たない。市民が持続性ある地域社会の必要性を理解し、それに参加することがこの問題で特に重要である。これには自治体の果たす役割が大きい。協議会では特に自治体の姿勢が重要であると考えられる。
システム構築へ力結集
システムに関する行政的・技術的蓄積も重要である。バス、コミュニティバス、タクシー、福祉移送サービス等を組み合わせて経済的に持続性あるシステムをつくるには、経営論的、システム論的検討が必要である。このような観点からの専門家は数少なく、自治体やコンサルタントだけでなく当事者・住民が力をつける必要がある。その意味で福祉移送サービス問題も交通バリアフリー法の移動円滑化基本構想づくりと似ている面がある。円卓テーブルではあるが、自治体の交通と福祉に対する姿勢が問われるのである。その意味で、福祉関係者だけで協議会を構成するのは不可能であるといえよう。
東京交通新聞 2005.8.8(月)
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