●障害者、難病患者や高齢者投票できない人多く
郵便では点字認められず制度の周知も大きな課題
のぞむ2005衆院選
三十日公示、来月十一日投票の衆院選は、郵政民営化だけでなく、年金や医療など社会保障改革も大きなテーマだ。生活に直結する選択だが、投票したくても、制度が「壁」になり、一票を投じることができないと訴える障害者や高齢者は多い。国民の基本的な権利である投票の制度について、現状と課題をみた。(村田泉)
現行の選挙制度では障害者らにどう配慮しているのか――。
自力または介助者が付き添って投票所に行ける人は、自分で候補者名などを書く自書や点字投票ができる。障害などで字が書けない人は、投票所で申し出て代筆による代理投票が可能だ。代筆するのは投票管理者が指名した代理人で、家族や介助者の代筆は事実上認められない。
投票所への介助者の入場は以前は認められなかった。一九九七年の公職選挙法改正で条件が緩和され、投票管理者の判断で、記載台の手前までなど、「投票の秘密を守る」ことができる範囲内で付き添いが認められるようになった。
障害や病気のため普段、病院や自宅から外出できない人のためには、公選法で二つの不在者投票制度を設けている。一つは都道府県の選挙管理委員会が指定する病院・施設内での投票。もう一つは投票用紙を自宅に郵送してもらい、候補者名を書いて選管に送り返す郵便投票だ。
病院・施設での投票は原則、投票日当日まで入院・入所している人が対象。指定された場所で、自書のほか、点字投票や不在者投票管理者(院長または施設長)が定める投票事務従事者による代理投票もできる。
郵便投票は従来、下肢などの重度障害のため外出できない人が対象だったが、公選法の改正で国政選挙では二〇〇四年七月の参院選から、新たに要介護度5の介護認定を受けた人と、「免疫障害」で身体障害者手帳一−三級の人も対象になった。腕などの障害で、郵送された投票用紙に自書できない人のため、家族などに代筆を認める代理記載制度もできた。
道選管によると、同月の参院選選挙区の郵便投票者は二千四百三十五人で、このうち百二十二人が代理記載。代理投票者は合わせて九千九十五人だった。
郵便投票の対象が限られているのは、家族らが本人の意に反した候補者名を書くなどの不正を防ぐためだ。このため障害判定が難しく障害者手帳を持たない難病患者や、歩行が困難なお年寄り、病気になどで自宅療養中の人などは郵便投票ができない。投票所では可能な点字の投票も、自宅では認められていない。
高齢化が進む中、身体障害などの認定などの認定を受けていない寝たきりの高齢者の投票権の保障も課題だが、総務省は、「検討課題ではあるが、(郵便投票対象者拡大などの)具体的な話はない」と話す。
一方で道内の障害者からは「郵便投票制度を知らず、権利があるのに投票しない人も多い」との指摘もある。札幌市選管は「個人情報保護の関係で該当者の情報を持っておらず、個々に知らせるのが難しい」と説明、市本庁舎に案内を置くなど、制度の周知に苦心している。
ホップ障害者支援センター 竹田理事に聞く
交通手段や情報提供 参政権の確保急いで
障害のある人やお年寄りの一票を生かす環境について、障害者の投票権の保障を訴えている特定非営利活動法人(NPO法人)ホップ障害者地域生活支援センター(札幌)の竹田保代表理事(四五)に聞いた。
道内ではこの数年間、多くの投票所で私たちが求めてきた建物の段差解消など、バリアフリーが進みました。しかし、障害者や高齢者の投票環境は十分といえません。
バリアフリーにしても、投票所が二階にあり、エレベータもない建物など、改善が難しい所は手つかずのまま残っています。交通手段がなく、投票日に雨が降ったため投票を断念せざるを得ない車いす利用者もいます。選挙公報の点字化や政見放送や街頭演説の手話通訳なども法律で義務付けられておらず、障害者が候補者の主張を知る判断材料も限られています。
投票所までの交通手段確保や介助、情報提供、投票所へ行けない人のための郵便投票の対象者拡大など、ひとつひとつ実現していかなければ、投票権が確保されたとは言えません。
民主主義社会で、参政権が保障されていることは、国民として認められているかどうかのバロメーターだと思います。日本では、選挙での不正防止に重きが置かれ、障害者の参政権確保に向けた取り組みは遅れがちでした。
福祉政策が進まない背景には、障害者などの参政権が確保されず、国の政策決定過程に当事者の声が反映されにくいこともあります。投票所のバリアフリー化の実現は一つの例ですが、多くの障害者が投票し、政治に参加することで、社会は確実に変わると考えています。
北海道新聞 2005.8.25(木)
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