●障害福祉 統合どうする

 財源安定、サービス充実

賛成(岩手県・宮古市 熊坂義裕市長…内科の開業医から97年に初当選。現在2期目。薬局で介護保険に詳しい薬剤師に気軽に相談できる「まちかど相談所」や、市民の声を反映する「サービス向上委員会」を設置。24時間ホームヘルプを始めるなどサービスを飛躍的に増やした。ケアマネジャーの資格を持つ。52歳。)

 現実的に考えれば、統合するしかない。障害者がサービスを選べるようにし、自立を支援するという支援費制度の理念はすばらしいが、初年度の国の補助金が128億円も不足した。スタートから財源問題が浮上するとは、余りにもお粗末だ。

 宮古市では初年度でホームヘルプサービスの利用が2倍近くに増えた。

「予算がないから使うのやめてください」と市町村はいえない。いまもサービスを使ってくださいと勧めながら、どこまで増えるか不安もある。とにかく、安定した財源が保証される制度にしなくてはならない。

 障害者福祉は本来税でやるべきだ、という主張はその通りだ。だが、小泉首相も消費税は上げないと言っている。とすれば、省庁間の縦割り予算の中で配分を変えられるだろうか。

 市町村は農林水産、道路などやらなければならない施策はほかにもあり、財源を福祉にシフトしたくても限界がある。税と保険料で賄う介護保険は、サービスに応じて財源が保証される仕組み。導入で高齢者福祉が充実した。障害者福祉も財源が保証されれば、充実させる自信はある。

 政府が従来のサービスの水準を落とさないと明言すれば、統合に反対している障害者の人たちも安心すると思う。

 子の問題は結局、「障害」をひとことではなく、自分のこととして考えられるかどうかだ。内科医として二十数年、500人以上をみとった。人は必ず死ぬし、死ぬ前にはほとんどの人が寝つく。昨日まで元気だった人が、若くして脳卒中や交通事故で突然からだが不自由になることもある。我々もいつ障害のある身になり、介護が必要になるかわからない。障害とは障害者手帳を持っている人だけでなく、支援が必要な人と広くとらえたい。

 介護保険料は20歳以上が負担して、支援が必要になったとき、年齢に関係なく、誰もが安心して利用できる国民皆介護保険にするのがいい。

若い世代に不信感生む

反対(東京・武蔵野市 土屋正忠…市職員、市議を経て83年に初当選、現在6期目。高齢者の生活全般を支援するため、高齢者福祉総合条例を制定。地域住民が民家を利用して高齢者の生活を支援する際、市が年間1千万円まで運営費を補助する「テンミリオンハウス」制度を設けるなど、独自の支援策を打ち出す。62歳。)

 生まれながらに、あるいは乳幼児期に障害を負った人が、保険料を払わないとサービスが受けられない。それで福祉国家といえるだろうか。障害者福祉は税金で支えるのが当たり前だ。介護保険との統合には反対する。

 例えば、1年間家族が一度も医者にかからないという世帯は少ない。医療保険が成り立つのは給付と負担の関係がはっきりしているからだ。だが、20歳から64歳までの障害発生率は、精神障害を除けば2%程度に過ぎない。障害者福祉は社会保険方式になじまない。

 支援費の補助金が足りないといっても百数十億円だ。これは予算編成の問題であり、いきなり制度論に結びつけるのはおかしい。支援費制度には財政的な欠陥があると強調するが、制度を作ったのは国ではないか。

 介護保険の被保険者年齢を引き下げる狙いは、サービス費用が膨張し、将来保険料が負担の限界を超えるから、お金を払う人を増やそう、ということだ。武蔵野市の保険料は03年の改定で400円上がり、基準月額で3700円になった。保険料の高騰は心配だ。保険財政だけ考えれば、被保険者の拡大は検討に値するようにみえるが、社会保険である以上、給付と負担はセットで考えなければならない。

 40歳以上なら、自分はともかく、親が要介護状態になる可能性があるから一応は理屈が通る。だが、給付を受ける可能性が限りなく低い20代の若者に介護保険料を払ってと、言えるのか。

 いまでも市には、サービスを利用していない高齢者から「保険料が高すぎる」と苦情が来る。無理に被保険者年齢を引き下げれば、税と変わらなくなる。給付と負担は切り離され、介護保険に対する不信感につながる。

「なぜおれが」と払わない人が出る。第二の国民年金になってしまう。

 長期的に考えれば、消費税と一緒に徴収する介護目的税の検討が必要なのではないだろうか。

首長の一言】

賛成

・障害者への給付、平等に−滋賀県竜王町・山口喜代治町長(人口1万3千人)

 支援費制度は精神障害者や難病患者などが対象外で、福祉サービスは身体・知的障害と比べて格段に遅れている。統合で障害者福祉サービスの向上が期待される。どんな障害者も決して置き去りにしてはならない。すべての障害者が平等に給付を受けられるような統合を目指すべきである。

・保険料抑制の対策必要−島根県海士町・山内道雄町長(人口2500人)

 町の介護保険料は月3900円。子どもは島から都会に出ていき、高齢化率は40%近い。高齢者の施設への入所希望が多く、保険料は今後も上がる。介護保険を運営する保険者を市町村から都道府県単位にするとか、被保険者年齢を引き下げるなどして保険料を抑制してほしい。

・65歳未満にも介護必要−千葉県夷隅町久我洋町長(人口7900人)

 介護保険制度の浸透でサービスが増え、家族の負担は軽減されつつある。しかし、ある末期のがん患者が終末を在宅で過ごすことを希望したが、64歳だったため、介護保険のサービスを受けられない事例があった。本当に介護が必要なのは65歳以上の人だけではない、と考えさせられた。

反対

・統合、国民の混乱を招く−北海道登別市・上野晃市長(人口5万5千人)

 両制度は、目的が大きく異なっている。介護保険はようやく制度が社会全体に理解されてきた段階であり、導入から1年しか経っていない支援費制度との統合で、国民は混乱するのではないか。障害者本人の意見も十分に出されていない。財源上の理由で、安易に統合するべきではない。

・障害者福祉、国は責任を−高知市・岡崎誠也市長(人口32万8千人)

 たった1年で財政的に破綻するような支援費制度を作るというのは、国としてあまりに見通しが甘い。社会保険で成り立っている介護保険との統合で解決しようとするのはおかしい。現場を預かる保険者の立場で言うと、国はもっと責任をもって障害者福祉施策の展開をするべきだ。

・若者の意欲損なう恐れ−熊本県高森町・藤本正一町長(人口7600人)

 お金が足りなくなったから、十分な検討も論議もなく、保険料を払う年齢を引き下げて財源を確保すればいいという考えを改めないと、日本の将来を担う若者の労働意欲を大きく損なうことになる。結果的に少子化に拍車がかかり、福祉に限らず、国の発展の妨げになることを懸念する

その他

・まず支援費制度改善を−大阪府守口市・喜多洋三市長(人口15万人)

 統合については慎重な検討が必要。将来「介護」というくくりで、組み入れを否定するものではないが、支援費制度の財政破綻や介護保険の財源確保のために、被保険者年齢を引き下げることは問題。引き下げを考える前に、支援費制度の中で検証・総括を含め、改善策を講じるべきだ。

・福祉目的税を導入せよ−広島県坂町・吉田隆行町長(人口1万2千人)

 人口が少なく高齢化率が高い自治体は、サービスに見合った財源確保が難しく、町の介護保険料を月額2900円から4500円に引き上げざるを得なかった。介護保険は都市重視、地方軽視の制度になっている。福祉目的税を導入して財源に充てれば介護・障害者福祉制度は安定する。

朝日新聞 2004.7.26(月)