●規制に頼るタクシー事業者は社会発展のバリアーとなる

 移動サービス市民活動全国ネットワーク事務局長
                            鬼塚 正徳


自治体の認識改善

 福祉有償運送の80条許可が全国展開されて半年が経過し、当初、運営協議会の主宰責任を持つ自治体の感度の鈍さが危惧(きぐ)されていたが、これが急速に改善しつつある。運営協議会という責任を負わされて初めて各自治体が自分の地域おける福祉輸送という視点に気がつき、また移動困難者の置かれている現状を直視し始めたようである。
 「福祉輸送」は利用者から指定される時間と場所に拘束され、車両1台で対応できる件数が限られる。加えて近距離の通院・通所のニーズでは料金が小額になることから、従来のタクシー事業者の多くがニーズを受け止めづらく、また目的地が遠かったり、透折通院のように利用する回数が極端に多い場合などは、利用者側の経済的理由により従来のタクシーの利用が困難だった。
 この問題に古くから地域の助け合いとして取り組んできたのが、ボランティア・NPOによる福祉有償運送活動である。すでに全国で数千台の福祉車両を運行し、自家用セダンの運行を加味すると1万台以上が動いていると推側される。このNPOの活動をとりあえず80条許可で追認することは、国として自然な流れであると認識する。

増大する福祉輸送

 わが国では介護保険のスタート以降、家族に頼っていた介護や移動を介護事業者やタクシーを含む福祉輸送事業者に委ねることが当たり前になりつつある。このことは財源の負担問題があるにしても、福祉輸送のニーズや市場サイズが大きくなり続けるということである。福祉タクシーの許可事業者/台数が、平成13年から15年のわずか2年間で2倍となり2362事業者/4574台となっている。この中には規制緩和で使用を認められた1557台の軽自動車も含まれる。多くが介護事業者の車両で思われるが、介護版個人タクシー事業者(限定許可)の増加も多い。

規制が工夫妨げる

 もうからない事業になぜ手を染めるのか、何人かに聞いてみた。お客様に「ありがとう」と言われることが支えだと答えが返ってきた。彼らは願客のニーズに様々な工夫でこたえようとしている。そして、規制がその工夫を妨げるのだと言う。
 我々はプロとして新しいタクシー事業者たちが出てきたことを歓迎する。お客としての移動困難者は門の前に止めてある車に一人ではたどりつけない。車を止めて利用者が乗り込んでくるのを、運転で座って待っているだけでお客がくることを当然と思っているような感覚では、このニーズや市場の拡大には対応できない。利用者のために安心と安全を担保する適切なルールの中で新しいサービス競い合うことが必要である。
(投稿)

東京交通新聞 2004.12.6(月)