●激増・・・業界が悲鳴 タクシー規制「逆特区」

  客の利便性低下に懸念

 杜の都、仙台でタクシーがあふれている。02年規制緩和で市内のタクシー台数は3割も増え、繁華街では、夜な夜な利用者の争奪戦を展開。「もはや競争も限界」と、地元のタクシー業界は、新規参入や増車を規制できる「タクシー需給調整特区」に仙台市を指定するよう申請した。規制を緩める構造改革特区とは反対の「逆特区」の申請だ。全国で初めてのこの動きに対し、「もう少し利用者の立場で考えるべきだ」と指摘する声も出ている。

 「速やかに移動しなさい」。東北一の歓楽街、仙台・国分町では、酔客を乗せようとするタクシーが、駐車が禁じられている繁華街近くに二重三重に並ぶ。警察の取り締まりを受けると何台かは離れるが、すぐに別のタクシーが横づけし、車別が消えることない。

 深夜、近くの仙台中央署に、タクシー運転手が「殴られた」と駆け込んできた。別のタクシーと客待ち場所の取り合いになったという。警察官が駐車禁止の場所だと指摘すると、「そんなことはわかってる。こっちは生活がかかってるんだ」。

収入は3割減

 改正道路運送法が02年2月に施行され、タクシー事業は、免許制から、基準を満たせば参入できる許可制に変わった。新規業者の参入や既存業者の増車が容易になり、全国のタクシー台数は今年7月末で26万7907台と、規制緩和の01年3月より4・5%増えた。
 仙台市内では約700台多くなり、約3300台になった。全国平均を大きく上回する26%の増加ぶりだ。
 だが、台数が急増した結果、多くの運転手が深刻な収入源に直面している。宮崎県タクシー協会仙台地区総支部によると、1台あたりの営業収入は緩和前より約3割も落ち込み、1日約2万7千円となった。
 佐々木昌二総支部長は「行きすぎた市場原理で運転手の労働条件が悪化し、安全なサービスの供給が困難になっている。座して死を待つよりは、と考えた末に行き着いたのが『逆特区』だった」と話す。

「増車したツケ」

 ある地域が著しい供給過剰に陥り、法令違反や苦情が増えるなどした場合、国土交通省は「緊急調査地域」に指定し、新規参入などを不許可にできる。総支部は先月、この緊急調査地域の指定要件を緩和した特区を設け、仙台市を指定するよう政府に申請した。
 ただし、仙台市で増えたタクシーの7割は既存の業者が増やした分という。東北運輸局は「既存業者が自発的に車を減らせば供給過刺は解消できるはず」と指定する。
 タクシーは歩合制で、事業者側は台数を増やせば、ある程度もうけが伸びる。タクシー運転手の男性(56)は「営業収入を増やそうと会社が一気に増車したツケ。逆特区がどうなろうが困るのは我々だ」。

「集客努力せず」

 これまでの規制緩和では、台数だけで運賃設定も原則自由になった。仙台では、初乗り340円と運常の約半額のタクシーも登場した。それだけに、再び規制を強めた場合の利用者への影響を懸念する声もある。

 初乗り500円のタクシー導入で知られるエムケイ(京都市)は「競争で質が上がり利用者の利便性も増す再規制を求めることは利用者の理解を得られるだろうか」と疑問を呈する。
 業界内にも「台数を増やすだけ増やし、利用者を増やすための努力はしてこなかった」と冷ややかな見方もある。
 不況で企業の利用者が減る中、「タクシー余り」が指摘される地域はほかにもある。業界が注目する仙台の「逆特区」申請に対し、政府の構造改革特区推進本部は、来年2月をめどに対応を決めることにしている

(富森ひな子、千葉卓郎)

朝日新聞 2004.12.8(水)