●「運営協議会」設置が課題

 NPOによる自家用車有償運送

  NPO(民間非営利団体)などによる福祉・過疎地の自家用自動車有償運送許可が4月から全国化され4ヵ月だった。2年間の重点指導期間(猶予)を踏まえ、NPOボランティア道運法80条許可取得の受け皿となる「運営協議会」の設置をどうするかが関東管内でも課題となっている。県レベルでは、複数の市町村にまたがって設立する場合の区割りなど対応を検討中だ。一方、単独の自治体で設立に動いているケースもみられる。そこで、県レベルの動きとして神奈川県の取り組み状況のほか、「セダン特区」の群馬県高崎市と神奈川県大和市の最新動向、運営協を近く立ち上げる茨城を見てみた。

複数市町村で設立も ブロックを検討
神奈川県

 先月20日の神奈川県議会。福祉有償運送問題で山本裕子議員(かながわネット)の質問に対し、松沢成文知事が答弁。県の方針を示した。

「運営協議会」の設置について松沢知事は「地域福祉の推進主体が市町村であることや、NPOの活動状況が地域によって異なることから、市町村が地域の実態に応じて設置することが望ましい」と原則を提示。

 その上で、「しかし、単独で運営協議会を設置することが困難との意見や、市町村をこえるNPO等の活動実態を踏まえると、複数市町村にまたがる運営協議会の設置について県として誘導する必要があると考える」と述べた。

 県ではこの方針に沿って、「今夏から秋にかけて市町村及び関係機関と調整し、ブロック分けを進めていきたい」(地域福祉推進部)としている。

県単位で特区検討

 県議会の同質疑では、「セダン特区」についても松沢知事が「県域における、特区の取り組みを検討したいと考えております」と答弁した。

 県の市町村に対する調査では、03年度に福祉有償サービスを行っているのは県全体114団体。使用車両1144台のうち約8割がセダン型。団体の内訳は社会福祉協議会が約半分、ほかはNPO法人など。

 年間のべ約24万人が利用したが、台あたり210人、月間にならせば17人程度にすぎない。

 県では「地域の助け合いの中での輸送」ととらえ、申請の検討を進めていく方針だ。

横浜市など単独設置へ

 市町村主体の運営協議会設置の動きでは、すでに大和市が昨年6月、地域福祉特区(セダン特区に4月移行)として設置。これに次いで、横浜市が秋にも単独で立ち上げる方針を打ち出しており、現在準備進めている。ほかにも複数の自治体が準備中だ。

 非営利の移動サービス団体・個人で組織する「かながわ福祉移動サービスネットワーク」の河崎民子代表は「利用者の安全・安心のためにも、ヤミに潜ってしまわないよう、国交省のガイドラインに沿って、きちんとした体制、許可を取る必要がある」と強調。そのために運営協議会の設置は急務とし、「地域福祉に責任を持つ意味では市町村主体が望ましい。単独もくしは複数の自治体による設置を要望していく」と話している。

「セダン特区」2自治体の動向

協議会立ち上げ足踏み 学識者、関係者と調整
高崎市

 6月セダン特区認定を受けた高崎市は当初の7月輸送開始から予定がずれ込んでいる。関係者への説明やヒアリングに時間がかかり、運営協議会の立ち上げは今月下旬か来月になりそうだ。特区認定を推進した高崎市と、実施主体として名乗りを上げているNPO法人に現時点での考え方などを聞いた。

 「市民団体や学識経験者、想定される利用者の関係者から個別に意見を聞いている段階」と障害者福祉課の担当者。

 県が先ごろ行った、指定訪問介護事業者に対する介護保険に関する福祉輸送の取り扱い説明が終わったの受けて、ヒアリングに本格的に動き出した。

 意見を聞くと言っても、まずはボランティア輸送が抱える法的問題を説明。その上でNPO法人による有償運送の取り扱い、セダン特区を説明した上で、ようやく本題に入れる状況だ。

 福祉輸送への期待は聞かれるものの、運行管理体制や輸送の安全性など特区事業への意見や要望まではなかなか出にくいようだ。

 市では利用対象として身体障害者と知的障害者、合わせて100人程度を想定。支援費制度による居宅介護支援費のうち移動介護を選択している場合が中心になる。100人に対しNPO法人1団体では足りず、実施団体が増える可能性もある。

 タクシー業会への説明や、運転者の資格要件についてのNPO法人との調整は今後になる。市では「障害者手帳があれば利用できるかのような誤解もあり、市としては関係者に事業の説明をしている段階。その上でタクシー業界やNPO法人との調整、さらに運営協ということになる」(障害者福祉部)と話している。

タク業界の理解に期待

「現在進行形、というよ足踏み状態と言った方が適切」と戸惑いを見せるのは、実施団体として名乗りを上げているNPO法人「ハートフル」の櫻井宏子代表。「市が中心の計画で、こちらが何か言うのは適当ではない」と歯切れも悪い。

 市が7月から実施を予定していると聞き、すぐさま対応を練り、「問題がないよう運行管理の専従者を置いた。料金面も検討し、さらに運転者の講習カリキュラムも用意した」と語る。

 同法人にとってセダン特区が全てではない。「毎日さまざまな利用者への対応もある。市周辺に住む利用者や特区が想定する以外の人への対応もある」と強調する。

「福祉輸送はどうしても営利事業だけでは対応できない。タクシーからみると利用者を奪われる断念があるかもしれないが、経済的負担も含めたタクシーですべて対応できるとは限らない。そういったい」点を理解してもらいたい」と今後の計画の推進に期待をかけている。

東京交通新聞 2004.8.9(月)